源氏物語「桐壺(1)光源氏誕生」の1分あらすじと現代語訳

 紫式部『源氏物語』の第1帖「桐壺」の冒頭、主人公の光源氏が誕生する一節をわかりやすい現代語訳で紹介します。あらすじは1分、現代語訳も5分ほどで読める長さです。原文を忠実に訳すことよりも、わかりやすさを重視。読みやすい文章を心がけましたので、ぜひお気軽にお読みください♪

1分でわかる「光源氏誕生」のあらすじ

 どのみかど御代みよでしたか、それほど身分が高くないのに、誰よりも帝に寵愛ちょうあいされているこうがいました。更衣の部屋は桐壺きりつぼにあり、帝がいる清涼殿せいりょうでんから遠く離れています。帝がしょっちゅう桐壺へ通い、その途中にある女御にょうごたちの部屋を素通りしていくものですから、女御たちが嫉妬に狂うのも無理ありません。イジメはエスカレートするばかりで、更衣は病気がちになっていきましたが、帝の比類ない愛情を心の支えにして奉公を続けていました。そして帝との間に、千年に一度の美しい若君を生みます。帝にはすでに皇太子候補である第一皇子がいましたが、この若君をこそ大切にしたいと思い、ますます特別扱いするのでした。

5分で読める「光源氏誕生」の現代語訳

桐壺更衣と帝

 どのみかど御代みよでしたか、大勢の女御や更衣がお仕えしている中に、さほど高貴な身分ではありませんが、誰よりも帝に寵愛されている人がおりました。後宮に入ったその時から「わたしこそが一番!」と思い上がっている女御たちは、その人を目障りな女だと見下し、嫉妬しています。その人と同じ程度か、もっと低い身分の更衣たちは、なおさら心穏やかではありません。

 日常の宮仕えにおいても、他の女御たちの心をかき乱すばかり。恨みを背負うことが積み重なったせいか、その人は病気がちになり、心細そうに実家で静養することが多くなっていきました。か弱いその人を帝はますます愛おしく思い、世間からのバッシングに配慮することもできません。後世にまで語り継がれる話のネタにもなりそうなほどの扱いぶりです。

 宮中の貴族たちも呆れて目をそむけ、「まことに目も当てられないほどの御寵愛ぶりである。唐の国でもこうしたことがあったからこそ、世の中が乱れて悪くなったのだ」と、しだいに世間一般にもどうしようもない悩みの種となっていきました。楊貴妃の例まで引き合いに出されそうな勢いで、その人はどんどん居心地が悪くなっていきましたが、帝の比類ない心づかいを頼りにして奉公を続けています。

 その人の父・大納言はすでに亡くなっていましたが、母・北の方は古くから由緒のある家柄の人でした。両親ともに健在で、今を時めく華やかな女御たちにも見劣りしないよう、母君はどんな儀式もうまく取り繕ってきました。でもこれといって太い後ろ盾がないので、格別な祭事が行われる時は頼れるところがなく不安そうでした。

光源氏誕生

 その人は前世でも、帝との縁が深かったのでしょうか。世にまたとないほど清らかな、玉のように美しい皇子が生まれたのです。いつかいつかと心待ちにしていた帝は、急いで宮中に呼び寄せて御覧になると、千年に一度のかわいらしい乳児であります。

 先に生まれた第一皇子は、高貴な右大臣家の子です。後ろ盾が厚く、皇太子候補として大切に育てられていると、疑いなく世に知られていました。ですが新しく生まれた皇子の輝くような美しさにはまったく及びません。帝は表向き第一皇子として相応に扱うぐらいで、内心は「この若君をこそ」と限りない愛情を注ぐのでした。

 その人はもともと、並みの宮仕えをするような軽い身分ではありませんでした。後宮での評判はとても高く、貴人らしい風格を持ち合わせていたのです。帝は節度を越えて側に付き添わせ、宮中で開催される管絃の遊びや、風情あるイベントがあるたびに、真っ先にその人を呼び寄せます。ある時は日が高くなるまで一緒に寝て過ごし、そのまま帝の側で奉公を続けるなんてことも! 帝が一途に側から離さないので、軽々しく扱われているように見えることもありました。

 それがこの美しい若君が生まれからは、たいそうな特別扱いを心に決めている様子です。第一皇子の母君は、「悪くするとこの若君が皇太子になるかもしれない」と疑い始めました。誰よりも先に後宮へ入り、第一皇子の他にも帝の子どもを生んだ女御です。帝もこの人の意見だけは無視できず、面倒に感じていました。

エスカレートするイジメ

 その人は帝のひいきを心の支えにしていましたが、見下すように欠点をあら探しする女御たちが大勢います。体はか弱く、心は繊細な人でしたので、必要以上にいろいろと思い悩んでいました。

 更衣がいる部屋は桐壺です。帝がいる清涼殿から遠く離れており、桐壺へ通うには女御たちの部屋の前をいくつも通る必要があります。帝は途中の部屋に立ち寄ることなく、しかも足しげく通うのですから、素通りされた女御たちが嫉妬するのも当無理ありません。

 更衣が清涼殿へ参上する際も、殿舎へ渡る橋や廊下のあちこちに、えげつないいたずらを仕掛けられました。更衣に付き添う女房たちの着物の袖が、我慢ならないほどダメになってしまうことも。ある時には、どうしても通らないといけない通路の戸を閉じ、更衣一行の前と後ろで息を合わせて鍵をかけ、通路内に閉じ込めたこともありました。

 事あるごとにイジメはエスカレート。更衣はどうすればいいのかわからなくなってしまい、ものすごく思い悩んでいました。その様子を「なんとかわいそうに」と御覧になった帝は、清涼殿の隣りに部屋を与えられていた更衣に、他の部屋へ移るよう命じます。そうして空いたその部屋を、桐壺更衣に使わせるようにしたのです。追い出された更衣は、恨みを晴らすすべもありませんでした。