菊芋茶が肝臓に悪い?イヌリンの論文を片っ端から調べてみた

菊芋茶が肝臓に悪い?イヌリンの論文を片っ端から調べてみた

イヌリンを豊富に含むノンカフェインの健康茶として注目されている菊芋茶ですが、「肝臓に悪い」という情報も出回っているようです。実際、Googleでも「菊芋茶 肝臓に悪い」というキーワードで、毎月1,000回以上も検索されています。

私は菊芋を家庭菜園で育てており、収穫期にはものすごい量がとれるので、毎日たくさんの菊芋を食べることになります。その菊芋から作る菊芋茶が肝臓に悪いとなると、私の肝臓にかけて見過ごすことはできません。

菊芋茶は本当に肝臓に悪いのか、調べられる限りの研究論文を片っ端から読んでみました。その内容をわかりやすく紹介します。

菊芋茶が肝臓に悪いと広まった理由

そもそもなぜ、「菊芋茶 肝臓に悪い」というキーワードで、毎月1,000回以上も検索されているのででしょうか。

菊芋茶を飲むときに、「これって肝臓に悪いのかな?」と不安に感じる人がそれほど多いとは思えません。肝臓への悪影響が気になるのは、お茶ではなくお酒でしょう。お茶はむしろ、「肝臓に良さそう」って私は思います。

ということはつまり、私が知らないだけで、菊芋茶は本当に肝臓に悪く、そのことが研究によって裏付けられているのかもしれません。そんな憶測から、まずは「菊芋茶が肝臓に悪い」という根拠となる情報を探してみました。

2018年に医学誌『Cell』で発表された研究論文

「菊芋茶が肝臓に悪い」という情報の発端と思われるのが、世界最高峰の三大学術誌の一つともいわれている医学誌『Cell』に、2018年10月18日に発表されたイヌリンに関する研究論文です。

その論文によると、イヌリンなどの発酵性水溶性食物繊維を含む飼料をマウスに与えたところ、一部のマウスで胆汁うっ滞や肝臓の炎症を経て、肝細胞がんが発生したとのことです。

出典:Dysregulated Microbial Fermentation of Soluble Fiber Induces Cholestatic Liver Cancer

ただし、これは飼料100g中7.5gものイヌリンを、6カ月間にわたって与え続けた実験です。成人が1日に食べる食事の総重量は、平均して約1,200g〜1,500gといわれています。単純計算で毎日約90~112.5gものイヌリンを食べ続けるのは、あまりに極端ですよね。

そのため、この研究論文を根拠に、「イヌリンは肝臓がんを誘発する」「菊芋茶は肝臓に悪い」と結論づけるのは、少し飛躍があるように思います。

『Cell』の研究論文をもとにした誤解を招く報道

しかし、論文の発表から8日後の2018年10月26日、日本のニュースサイトに「水溶性食物繊維に肝細胞がん誘発の可能性」という見出しの記事が掲載されました。

記事の冒頭には、「水溶性食物繊維のイヌリンを与えたマウスで肝細胞癌が誘発された」とあり、飼料の7.5%をイヌリンが占めていたことなど、摂取量については触れられていません。この記事だけを読めば、「イヌリンは肝臓に悪いのか」と思ってしまうのも当然です。

同研究は海外の科学ニュースでも、「食物繊維と肝臓がん」を結びつける形で紹介されました。マウスへの摂取量が極端だったとはいえ、イヌリンに発がんの可能性がわずかでもあるという結果は、かなり衝撃だったようです。

このようにセンセーショナルに広まれば、「イヌリンは肝臓に悪い」という印象だけが残ってしまっても不思議ではありません。

イヌリンと肝臓に関する研究論文

イヌリンを毎日90g以上も摂取することはないとしても、肝臓がんを誘発する可能性がゼロではない以上、やはり不安が残ります。そこで、イヌリンの肝臓への影響を調べた研究論文を一つひとつ紹介します。

2020年のマウスを使った研究論文

先ほど紹介した2018年の実験に続いて、2020年にもマウスを使った研究が発表されています。

この実験では、100g中30gものイヌリンを含む飼料を、通常のマウスに12日間与えました。すると、血液中の胆汁酸は増加したものの、明らかな肝障害や線維化は確認されませんでした。

出典:Inulin Supplementation Disturbs Hepatic Cholesterol and Bile Acid Metabolism Independent from Housing Temperature

2022年のマウスを使った研究論文

2022年には、2018年と同じ研究グループによる追跡研究が発表されています。

調査の結果、肝臓がんになりやすかったマウスには、先天的な血管の異常があることが分かりました。血管の異常によって、血液中の胆汁酸が高いマウスは肝細胞がんが発生しましたが、そうではない通常のマウスでは発生しませんでした。

つまり、2018年の実験で肝臓がんになったマウスには、もともと発症しやすい体質があったことが、その後の研究で明らかになったということです。

出典:Enterohepatic Shunt-Driven Cholemia Predisposes to Liver Cancer

2003年の健康な成人8人を対象とした研究論文

2003年には、健康な成人8人に、1日10gのイヌリンを3週間摂取する研究が行われました。

その結果、肝臓で新しく作られる脂肪の量が抑えられ、血液中の中性脂肪が減少したとのことです。この実験では肝臓への悪影響は確認されず、むしろ肝臓で作られる脂肪の量が減っています。

出典:Addition of inulin to a moderately high-carbohydrate diet reduces hepatic lipogenesis and plasma triacylglycerol concentrations in humans

2015年の成人24人を対象とした研究論文

2015年には、肝機能検査などに問題のない過体重の成人24人を対象に、1日10gのイヌリンを24週間摂取する実験が行われました。

その結果、肝機能の指標となるASTは悪化せず、ALTとALPは低下しました。少なくとも、この実験ではイヌリンによる肝機能の悪化は確認されていません。

出典:Effects of targeted delivery of propionate to the human colon on appetite regulation, body weight maintenance and adiposity in overweight adults

2019年の脂肪肝患者9人を対象とした研究論文

2019年には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者9人を対象に、1日20gのイヌリンを42日間摂取する研究が行われました。

その結果、肝臓に蓄積している脂肪の割合が、平均20.9%から26.8%に増加したということです。もともと脂肪肝のある患者が対象ですが、イヌリンの摂取によって肝臓への悪影響が確認された研究です。

出典:The effects of dietary supplementation with inulin and inulin-propionate ester on hepatic steatosis in adults with non-alcoholic fatty liver disease

2020年の脂肪肝患者60人を対象とした研究論文

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者を対象とする実験は、2020年にも行われています。NAFLDの患者60人を3つのグループに分け、イヌリンを1日8g、12週間摂取する研究が行われました。

その結果、抗菌薬とイヌリンを摂取したグループでは、肝機能の指標となるALTが低下しました。一方、イヌリンだけを摂取したグループでは、肝機能への悪影響はなかったものの、明らかな改善効果までは確認されませんでした。

出典:Randomised Double-Blind Placebo-Controlled Trial of Inulin with Metronidazole in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease (NAFLD)

2022年のアルコール使用障害患者50人を対象とした研究論文

2022年には、アルコール使用障害で入院中の患者50人を、「断酒+イヌリン」と「断酒+マルトデキストリン」の2つのグループに分け、17日間比較する研究が行われました。イヌリンは1日4gから16gまで段階的に増やしています。

その結果、両グループともASTとALTは低下し、肝機能が改善しました。ただし、イヌリンを摂取したグループの方が改善の程度は小さく、断酒による肝機能の改善をさらに高める効果は確認されませんでした。

出典:Liver alterations are not improved by inulin supplementation in alcohol use disorder patients during alcohol withdrawal: A pilot randomized, double-blind, placebo-controlled study

2012年に菊芋による肝障害が疑われた症例

イヌリンの研究とは別に、日本では菊芋による肝障害が疑われた症例もあります。

2012年、約2カ月間にわたって菊芋を食べていた70歳代の女性が、全身の倦怠感と肝機能障害で入院しました。ALTは2,565IU/Lまで上昇し、菊芋の抽出液を使った薬剤リンパ球刺激試験(DLST)でも陽性となったため、当初は菊芋による肝障害が疑われました。

しかし、その後保存されていた血液を詳しく調べたところ、E型肝炎ウイルスが検出されました。最終的には、菊芋による肝障害ではなく、E型肝炎だったことが分かっています。

出典:薬物性肝障害との鑑別を要したE型肝炎の1例

【結論】菊芋茶は肝臓に悪いのか

ここまで紹介した研究論文を見ると、イヌリンが肝障害を引き起こす可能性はゼロではないものの、過剰に摂取しない限りは問題ないように思います。少なくとも、菊芋茶を日常的に飲む程度では、肝臓に悪い影響があるとは思えません。

ただし、すでに脂肪肝などの肝臓に問題のある方は、イヌリンによる悪影響も報告されているため、医師に相談した方がよいでしょう。また、イヌリンを薬代わりにして、肝機能の数値を改善しようとするのも慎むべきかと思います。

イヌリンは腸内環境を整えたり、食後の血糖値の急上昇を抑えたりと、健康へのさまざまな効果が期待される成分です。そのイヌリンを含む菊芋茶は、健康茶でありながらクセがなく、普通のお茶と同じように飲むことができます。特に健康に問題のない方は、普段の飲み物に菊芋茶を取り入れてはいかがでしょうか。

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