マヤ神話『ポポル・ヴフ』(6)最初の人間たちによるトゥラン征服

 マヤ神話『ポポル・ヴフ』の内容を全7回に分けて紹介します。

 前回はフンアフプーとイシュバランケーが地下にある冥界シバルバーを征服して、太陽と月になるお話でした。今回はそのほんのちょっとまえ、ツァコルとビトルという神が人間の創造に成功し、最初の人間たちが夜明け、つまり太陽と月の出現を迎える話です。

目次

ついに人間の創造に成功

 それは、ツァコルとビトルの頭上に太陽と月と星が現われ出る、ほんのちょっとまえのことであった。

 一度目は泥土、二度目は木で人間を造ろうとした神々でしたが、いずれも失敗に終わってしまいました。なんとしても忠実に崇め敬ってくれる存在が欲しい神々は、今度はトウモロコシを挽いた粉で人間を製作。バラム・キツェー、バラム・アカブ、マフクタフ、イキ・バラム、という名の4人の男の人間が造られました。

 4人の男たちは才能に恵まれ、はるか遠くを見渡すことができ、この世のすべてを知ることができました。創造神たちへの感謝の気持ちも忘れません。完璧な人間だったのです。

 しかし、創造神たちはそれを喜びませんでした。人間が神々と同じ能力を持っていてはいけないと、4人の男たちの眼を曇らせました。こうして4人の男たちは能力をそぎ落とされ、目の前にはるはっきりしたものしか見えなくなってしまったのです。

最初の人間(夫婦)

 次に創られたのは女の人間です。創造神は4人の男たちに、4人の美しい妻を与えたのです。

最初の人間(夫婦)
  • バラム・キツェー(夫)× カハ・パルーナ(妻)
  • バラム・アカブチョミハー(妻)
  • マフクタフ(夫)× ツヌニハー(妻)
  • イキ・バラム(夫)× カキシャハー(妻)

 彼女たちは子を産み、大小さまざまな部族の祖となりました。まだ太陽も月もない暗闇の世界で、たくさんの人間が繁殖していったのです。人間たちは神への祈りを捧げながら、太陽が出現し、夜が明けるのを待っていました。

 しかし、夜は一向に明けません。最初の4人の人間、すなわちバラム・キツェー、バラム・アカブ、マフクタフ、イキ・バラムは不安になり、神の御印を探しに行きます。そしてトゥランという町にやって来ました。

太陽と月と星の出現

 トゥランに到着すると、さっそく神々が現れました。最初に現れたのは「トヒール」という神。バラム・キツェーはトヒールを籠に入れて、肩に担ぎました。

 次に現れたのは「アヴィリシュ」という神で、バラム・アカブが担ぎます。「ハカヴィツ」という神はマフクタフ、「ニカフタカフ」という神はイキ・バラムが担ぎました。

 最初に現れたトヒールは、火を与えることができる神でした。ある日、バラム・キツェーとバラム・アカブが火で温まっていたところ、急に霰が降ってきて火が消えてしまいました。寒さで死にそうになった二人は、トヒールに再び火を付けてもらうようお願いします。するとトヒールは無条件で火を与え、二人は再び体を温めることができたのでした。

 その頃、他の部族も急に火が消えてしまい、凍え死にそうになっていました。彼らはバラム・キツェーたちに火を少し分けてほしいと頼みます。しかしバラム・キツェーたちはこれを拒否。他の部族の人々は悲しい気持ちになりました。

 その時、バラム・キツェーたちの前にシバルバーからの使者が現れました。

「トヒールはきさんらの神っちゃ。他の部族が火ばくれんねち言ってきたら、トヒールに生け贄ばやらないかんっちゃ」

 そう言われたバラム・キツェーたちは、他の部族たちにトヒールへの生け贄を求めました。他の部族たちは言われたとおりに生け贄を捧げ、火を受け取ったのでした。

 こうしてバラム・キツェーたちは、他の部族たちに生け贄を捧げさせる権力を手にしたのです。それはつまり、トゥランを征服したことを意味します。

 そして、ついに太陽と月と星が現れたのでした。

カモ

トゥラン征服からいろいろあるけど省略

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この記事を書いた人

『方丈記』に感銘を受けて古典文学にのめり込み、辞書を片手に原文を読みながら、自分の言葉で現代語に訳すことを趣味としています。2024年9月から10年計画で『源氏物語』の全訳に挑戦中です。

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