マヤ神話『ポポル・ヴフ』の内容を全7回に分けて紹介します。
第4回目は、フンアフプーとイシュバランケーが、兄であるフンバッツとフンチョウエンを猿に変えてしまう話です。兄から憎まれ、祖母からも母からも愛されなかった双子は、兄への復讐を決意。絶対に笑ってはいけない猿回しを企画しました。


虐待を受けて育つ双子
イシュキックは山の中でフンアフプーとイシュバランケーを出産しました。義母のイシュムカネーは居合わさず、一人でのお産でした。双子の赤ちゃんを家に連れて帰りますが、なかなか寝つかず泣いていたので、
「やかましいのう! 外に出しちまいな!」
と家から追い出され、アリの巣の上に置かれてしまいました。そこで双子の赤ちゃんは眠りにつきましたが、それでは面白くないと、アリの巣からトゲの上に移されます。双子の弟が憎らしくてたまらなかったフンバッツとフンチョウエンが、死を望んでやったのです。このよう双子は誰からも愛されることなく、野原で育ちました。

母イシュキックはなぜ助けない⁉
双子の復讐が始まる
フンバッツとフンチョウエンは音楽と美術が得意で、いつも歌を歌ったり絵を描いたりしながら遊んでいました。一方でフンアフプーとイシュバランケーはせっせと働き、夕食用の鳥をとって毎日持ち帰ります。しかし、フンアフプーとイシュバランケーがその鳥を食べることはありませんでした。フンバッツとフンチョウエンが全部食べてしまい、少しも分け与えなかったのです。
それでもフンアフプーとイシュバランケーは自分の立場をわきまえて、家族に尽くそうとしていました。しかし我慢はとうとう限界に達し、二人の兄を懲らしめてやろうと考えます。
双子はその日、鳥を持って帰りませんでした。案の定、祖母に激怒されてしまいますが、
「仕留めた鳥が木に引っかかって取れないのです。木登りが得意な兄さんたちなら取れると思うのですが⋯⋯」
と言って、4人でその木のもとへと向かいました。二人は兄たちを木に登らせると、木に魔法をかけます。すると木はぐんぐんと高くなり、兄たちが降りられない高さにまで伸びていきました。二人は兄たちに、
「ふんどしをお尻から垂らすと降りやすくなりますよ」
と、どう考えてもそうはならんだろって嘘をつきますが、兄たちは遊んでばかりで頭が悪かったので、言われるがままにふんどしをお尻側から垂らしました、するとふんどしが尻尾に変わり、二人の兄たちは猿になってしまったのです。猿になったフンバッツとフンチョウエンは、木をブランコしながら森の奥へと消えていきました。



だから母イシュキックはなぜ何もしない⁉
絶対に笑ってはいけない猿回し
家に戻ったフンアフプーとイシュバランケーは、兄たちが猿になってしまったことを祖母と母に報告します。決して自分たちがやったとは言いません。悲しむ祖母を見て、
「おばあさん、大丈夫だよ。兄さんたちは必ず帰ってくるよ。その時におばあさんが笑わなければ、兄さんたちは元に戻るから」
と言って、絶対に笑ってはいけない猿回しを始めました。フンアフプー・クオイ(フンアフプーの猿の意)という歌を歌うと、フンバッツとフンチョウエンのやって来て、音楽に合わせて踊り始めたのです。それを見た祖母は、猿になったとはいえ自分の息子であるにもかかわらず、醜い姿にこらえきれず吹き出してしまいます。フンバッツとフンチョウエンは森へと行ってしまいました。
「おばあさん、まだ大丈夫です。チャンスはあと3回ありますから」
と言って、もう一度兄たちを呼びますが、今度は吹き出すどころか声を出して大笑い。3度目は腹を抱えて大爆笑してしまい、4度目はもうフンバッツとフンチョウエンが顔を出すこともありませんでした。
「おばあさん、僕たちはできる限りのことをしました。あばあさんが笑ったからいけないのです。これからは僕たち二人を、兄さんたちの形見だと思ってください」
こうしてフンアフプーとイシュバランケーは、あたかも自分たちが救おうとしたかのような体にして二人の兄を追い出しました。祖母と母に気に入られようと、一生懸命に働くのでした。



母イシュキックはなぜ気に入ってない⁉
父親と同じ道をたどる双子
フンアフプーとイシュバランケーは、魔法を使って畑を耕したり、鳥を捕まえたりしていました。道具が勝手に仕事をしてくれて、働く必要がない二人は暇だったので、ヴクブ・カキシュ一家を殺害したりして遊んでいました。


ある日、二人の畑が何者かに荒らされてしまいました。犯人を突き止めるために畑を監視していると、動物たちの仕業であることが発覚。ジャガーや鹿、猫や犬も畑を荒らしに来ましたが、二人はどれも捕まえることができません。ようやく一匹のネズミを捕まえて、頭を押さえつけて息を詰まらせ、尻尾を火で焼きました、ネズミの尻尾に毛が生えてこないのは、こうした経緯があるからです。



はっ⁉
二人がネズミの眼を突き刺そうとすると、ネズミが命乞いを始めました。
「わたしを殺さないで。良いこと教えるから。あなた方のお父様方が使っていた球戯道具、アレのありかをお教えしましょう」
と言うと、二人はテンションが上がってネズミを釈放。球戯道具を手に入れた二人は、かつて父親たちがそうしていたように、球戯に明け暮れました。そしてまた、シバルバーの大王に目を付けられてしまったのです。
【次回】双子がシバルバーで大暴れ
フンアフプーとイシュバランケーは、かつて父親のフン・フンアフプーが殺害されたシバルバーに呼び出されます。あっさりとやられた父親と違い、シバルバーの試練を次々にこなす双子。『ポポル・ヴフ』のクライマックスともいえる熱い戦いをお楽しみください♪

