マヤ神話『ポポル・ヴフ』の内容を全7回に分けて紹介します。
第2回目は、後に太陽と月となる双子の神、フンアフプーとイシュバランケーが、ヴクブ・カキシュという傲慢な男を一家もろとも 殺害 退治するお話です。双子の神は嘘をついて相手をだまし、財産をも巧みに奪い取るという実に 汚い 巧妙な手口でヴクブ・カキシュ一家を滅ぼします。とても神様とは思えない胸糞悪いお話ではありますが、そこはもうエンタメと思ってお楽しみください♪


ヴクブ・カキシュと双子の神
神々が大地を創造し、木で人間を造ろうとして失敗し、洪水を起こして流し去った後の時代のことです。
そのころ、地の面にはほとんど光がなかった。まだ太陽がなかったのである。ただ、ヴクブ・カキシュという、とてもうぬぼれの強い男がいた。

まだ太陽がなかった⁉
ヴクブ・カキシュとは、マヤ語で「7のオウム」という意味です。エメラルドのように光り輝く羽根を持ち、眼は銀づくりで、宝石のような歯を持っています。財宝をひけらかしては、自分こそが太陽であり、月であり、光であると豪語。世界を支配しようという野心を抱いていました。
それをよく思っていなかったのが、後に英雄として語られる双子の神、フンアフプーとイシュバランケーです。フンアフプーは「猟師」、イシュバランケーは「小さなジャガー」を意味します。まだ人間がいない世界で、あんな傲慢な男を野放しにしてはいけないと、ヴクブ・カキシュの 殺害 退治をくわだてます。



双子の神もよくある設定かも
ヴクブ・カキシュを奇襲するも失敗
フンアフプーとイシュバランケーは、ヴクブ・カキシュを奇襲する作戦を実行します。二人は吹筒という吹き鉄砲のような武器を使って、木の上で食事中のヴクブ・カキシュを打ちました。弾はあごに命中し、ヴクブ・カキシュは木から真っ逆さま。落ちたところをフンアフプーが捕まえようとしますが、逆に腕をもぎ取られてしまいます。
ヴクブ・カキシュはあごの痛みに耐えながら、フンアフプーの腕を持って逃げ帰りました。家で待っていた妻のチマルマットに、
「若い奴らが急に襲ってきたンゴ! 歯が痛くて痛くてたまらないンゴ!」
と話しながら、フンアフプーの腕を火の上につるし、彼らが取り返しに来る時を待ちます。



フンアフプーにはまったく同情できないかも
歯の治療だと嘘をついて殺害
フンアフプーとイシュバランケーは、次の作戦を知り合いの老夫婦に相談します。二人は老夫婦の孫という設定にして、4人でヴクブ・カキシュのもとを訪ねました。物乞いのふりをして、
「食べ物を分けてくれませんか? 孫もひもじいのです」
と、ヴクブ・カキシュに訴えかけると、彼は自分の襲った双子にはまったく気づかず、
「ワイも苦しいンゴ! 歯が痛くて食べられないンゴ!」
と言います。そこで老夫婦は歯を治せると嘘をつき、エセ治療を始めました。ヴクブ・カキシュの歯を抜いて、代わりに白いトウモロコシの粒を入れたのです。するとヴクブ・カキシュの顔がしぼみ衰えていき、そのまま死んでしまいました。妻のチマルマットも理由なく死亡します。
こうして双子の神はフンアフプーの腕を取り戻し、ヴクブ・カキシュの財宝をすべて没収したのでした。



『ポポル・ヴフ』ではこれを、「素晴らしいことをやりとげた」と評しているかも⋯⋯
長男シパクナーをカニでだまして殺害
ヴクブ・カキシュには二人の息子がいました。長男はシパクナー、次男はカブラカン。シパクナーは400人の若者を殺したから、カブラカンはなんかムカつくから、という理由で双子の神に殺害されます。
シパクナーは怪力の持ち主。大木を引きずり歩いていた400人の若者たちに出会い、彼らを手助けしようと一人でその大木を運びました。それなのに若者たちは恩を感じるどころか、
「あいつ強過ぎヤバくね? 殺した方がいくない?」
と、シパクナーの殺害を計画します。しかしその計画を見破っていたシパクナーは、計画通りに殺されたふりをして、若者たちへの反撃のチャンスをうかがっていました。シパクナーを殺せたと思い込み、盛大に酒を盛っていた若者たちは泥酔。そのすきにシパクナーは、若者たち400人を全員殺しました。
それを聞いたフンアフプーとイシュバランケーは、シパクナーの殺害を決意します。二人はカニの人形を作り、谷底に設置すると、
「あそこにすごく大きくなカニがいるよ~♪」
と言って、シパクナーを呼び出しました。
「なんと素晴らしいカニ! 美味しそう~♪」
と、ウキウキしてカニの人形を取りに行ったシパクナー。すると偶然にも?山崩れが起こり、シパクナーは土に埋もれて石になったのでした。



神よりシパクナーの方が良い人そうかも⋯⋯
次男カブラカンもだまして殺害
カブラカンも怪力で、山を揺り動かせるほどの力を持っていました。山を崩すのを趣味として楽しんでいたところ、それをフラカンという天の神が、
「彼がこの地でやっていることはよくないことだ。滅ぼせ」
と、フンアフプーとイシュバランケーに命じます。二人はその命を実行するべく、
「超デカい山があるんだけど、カブラカンでもさすがに無理っすよね」
と言って、カブラカンをそそのかします。カブラカンをデカ山に案内する道中で、
「飯にしましょう♪ こんがり焼けた鶏肉はいかが~♪」
と、あらかじめ毒を仕込んでおいた鶏肉をカブラカンに与えました。それを食べたカブラカンは体が麻痺。フンアフプーとイシュバランケーはカブラカンを縛り上げ、土の中に埋めて殺害しました。こうしてヴクブ・カキシュ一家は全員、双子の神に滅ぼされてしまったのです。



神ひどいかも⋯⋯
【次回】フンアフプーとイシュバランケーの生い立ち
なかなかにしんどいストーリーですよね。『ポポル・ヴフ』ではヴクブ・カキシュ一家の悪事がそれほど語られていない上に、双子の神に対して敵意を抱いてはいない風なので、フンアフプーとイシュバランケーの方こそがDQNな若者のように感じてしまいます。
それでもこの二人は神なのです。次の章ではその生い立ちが語られます。これがまたさらに胸糞悪いのですが、エンタメと思ってお楽しみください♪

