マヤ神話『ポポル・ヴフ』のあらすじを、8回に分けてポップにわかりやすく紹介します。
第1回目は神話のお決まりともいえる、世界創造のストーリー。空と海だけが広がる暗闇と静寂の世界で、神々は大地を創造し、動物を創り、人間を創ります。しかし、人間は失敗作に終わり、洪水を起こして流し去ることに⋯⋯。

これまたお決まりのパターンかも
マヤ神話『ポポル・ヴフ』とは?
『ポポル・ヴフ』は、マヤ族の一つである「キチェ族」の神話と歴史が記された文書です。
キチェ族は現在のグアテマラ高地にキチェ王国を築き、最盛期には100万人を超える人口を有していました。1524年にスペイン人に征服されてしまいますが、キチェの神話は口頭で語り継がれ、忘れられることはありませんでした。そして1550年頃、ラテン文字(アルファベット)を覚えたキチェ人が、口承されてきた神話をアルファベット表記のキチェ語で書き留めます。その文書にはタイトルがありませんでしたが、序文に『ポポル・ヴフ』という原典があったと書かれていたことから、現在では『ポポル・ヴフ』と呼ばれています。
1550年頃の時点で『ポポル・ヴフ』の原本はすでになく、1550年頃に書かれた文書も行方がわかっていません。現存する最古の『ポポル・ヴフ』は、1701年頃にフランシスコ・ヒメーネス神父が書き写したものです。
1688年にグアテマラへ渡ったヒメーネス神父は、1701年にチチカステナンゴへやって来ました。そこでキチェ族の歴史が綴られた文書を発見し、キチェ語でそのまま書き写すとともに、スペイン語の訳も付けました。10年以上にわたるグアテマラでの生活の中で、キチェ語はネイティブレベルに達していたのでしょう。ヒメーネス神父が残した写本は、現在も『ポポル・ヴフ』の原典に極めて近いものとして重宝されています。
マヤ神話『ポポル・ヴフ』のあらすじ(1)
カニもいない世界
人間はまだ一人もいなかった。獣も、鳥も、魚も、カニもいなかった。木も、石も、洞窟も、谷間も、草や森もなく、ただ静かな海と、限りなく広がる空だけがあった。



カニ⁉
光り輝く神々による大地の創造
そんな暗闇の世界で、光り輝く神々がいました。「テペウ」と「グクマッツ」です。マヤ語でテペウは「王」、グクマッツは「翼を持つ蛇」を意味します。
テペウとグクマッツは「言葉」を生み、暗闇の中で「創造」について語り合いました。そして二人が、
「大地!」
と叫ぶと、水の中から大地が現れ、山々と谷間が造られました。



グクマッツは「ククルカン」とも「ケツァルコアトル」とも呼ばれるかも
犠牲の運命を背負わされる動物たち
次に、神々は動物を創造しました。しかし、動物たちは言葉を話すことができず、ただ鳴きわめくばかり。神々の名を呼ぶこともできません。自分たちを崇めてくれる存在が欲しかった神々は、動物たちにこう告げます。
お前たちは食糧を求めて一生森をさまよってろ。お前たちの肉はミンチにされて食べられてしまうだろう。それがお前たちの運命だ。
こうして動物たちの運命が決まりました。



えっ⁉
自身の失敗を暴力で消そうとする神々
神々はいよいよ、人間の創造に取り掛かります。しかし泥土で造った人間は、すぐに崩れてしまう失敗作。そこで「イシュピヤコック」と「イシュムカネー」という老夫婦に相談し、今度は木で人間を造ることにしました。
木で造った人間は生殖能力があり、地上に増えていきました。しかし、四つ足で意味もなくさまようことしかできず、神々を崇められるような知恵もありませんでした。失望した神々は木の人間たちをぶっ壊し、洪水を起こして流し去ろうとします。
でも木の人間たちは絶滅しませんでした。洪水を生き延びた木の人間たちは、眼をえぐり取られたり、顔をかみ砕かれたりと、さらに過酷な暴力を受けながらも、森へと逃げ隠れます。そうして生き残った木の人間の子孫が、今も森の中にいる猿なのです。



『ポポル・ヴフ』は暴力の描写がしんどいかも
【次回】ヴクブ・カキシュ一家殺害事件
結局まだ人間は誕生していませんが、急に話が飛ぶのが『ポポル・ヴフ』の得意技です。フンフアプーとイシュバランケーという双子の神が、ヴクブ・カキシュという傲慢な男を一家もろとも 殺害 退治する話に移ります。
ヴクブ・カキシュは確かに世界征服をたくらむ傲慢な男ではあるのですが、その妻は特に悪いことをしていないようですし、二人の息子もそんなに悪い奴とは思えません。むしろ双子の神のやり方が陰気臭いというか、はっきり言って汚いです。
胸糞注意。乞うご期待!