万葉集「巻6-966番歌」の原文・現代語訳・作者・万葉歌碑

原文

  倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈

 右、大宰帥大伴卿兼任大納言、向京上道。此日馬駐水城、顧望府家。于時送卿府吏之中、有遊行女婦。其字曰兒嶋也。於是娘子、傷此易別、嘆彼難會、拭涕、自吟振袖之謌

読み下し文

  倭道やまとぢくもがくりたりしかれどもわが振るそで無礼なめしとふな

 右、太宰帥だざいのそち大伴卿おほとものまへつきみの大納言に兼任して、みやこむかひて上道みちだちす。この日馬をみづとどめて、府家ふけを顧み望む。時に卿を送る府吏ふりの中に、遊行女婦うかれめあり。そのあざなじまと曰ふ。ここに娘子をとめ、この別るることの易きをいたみ、の会ふことの難きを嘆き、なみだのごひて、みづから袖を振る歌をうたへり。

語釈
  • やまとぢ【倭道】:大和へ向かう道。
  • そでふる【袖振る】:(別れを惜しむ表現として)袖を振る。
  • なめし【無礼し】:無礼だ。無作法だ。
  • みづき【水城】:現在の福岡県太宰府市水城。大宰府防衛のために造られた土塁。
  • ふけ【府家】:大宰府の家。
  • のぞむ【望む】:はるかに見る。
  • ふり【府吏】:大宰府の官吏。
  • うかれめ【遊行女婦】:遊女。歌詞を伝誦して宴席に供する者として歌に堪能であった。
  • こじま【児島】:筑紫で大伴旅人と関係があった遊女の名。
  • そでふる【袖振る】:(別れを惜しむ表現として)袖を振る。

現代語訳

  大和への道は雲に隠れて見えなくなりました。お目にふれずとも私の振る袖をどうか無礼だと思わないでください。

 右、太宰帥だざいのそち大伴卿おほとものまへつきみが大納言を兼任して、都へ向かって出発した。この日馬をみづとどめて、大宰府の家を顧みてはるかに見る。時に、卿を送る府吏ふりの中に遊女がいた。そのあざなじまと言う。この時、遊女は大伴卿と別れることの容易さに心を傷めて、再会することが難しいことを嘆き、涙を拭って自ら袖を振る歌を詠った。

作者

 児島

万葉歌碑

万葉集「巻6-966番歌」の万葉歌碑 / 2024年10月4日訪問
万葉歌碑の所在地
福岡県太宰府市「水城館」 / 2024年10月4日訪問

場所:水城館

住所:〒818-0132 福岡県太宰府市国分2丁目17