可之布江に鶴鳴き渡る志賀の浦に沖つ白波立ちし来らしも
『万葉集』の第15巻3654番歌は、天平8(736)年に新羅へと派遣された遣新羅使が歌った「筑紫の館に至りて遙かに本郷を望みて、悽愴みて作れる歌四首」のうちの一首です。第15巻3654番歌の原文・現代語訳・作者・万葉歌碑を紹介します。
天平八年丙子夏六月、遣使新羅國之時、使人等、各悲別贈答、及海路之上慟旅陳思作歌
并、當所誦詠古歌 一百四十五首
天平八年丙子の夏六月、使を新羅国に遣はしし時に、使人らの、各々別を悲しびて贈答し、また海路の上にして旅を慟み思を陳べて作れる歌
并せて、所に当りて誦詠せる古歌 一百四十五首
語釈
- へいし【丙子】:干支の組み合わせの13番目。西暦年を60で割って、余り16の年が丙子の年。
- しらき【新羅】:朝鮮半島東南部にあった三韓のうちの一国。
至筑紫舘遥望本郷、悽愴作歌四首
筑紫の館に至りて遙かに本郷を望みて、悽愴みて作れる歌四首
語釈
- つくし【筑紫】:九州地方の総称、または筑前と筑後の総称。
- つくしのたち【筑紫の館】:のちの福岡城内にあったとされる、海外からの使節を接待するための客館。
- もとつくに【本郷】:故郷の大和。
- いたむ【悽愴む】:悲しむ。嘆く。
可之布江尒 多豆奈吉和多流 之可能宇良尒 於枳都之良奈美 多知之久良思母
一云、美知之伎奴良思
可之布江に鶴鳴き渡る志賀の浦に沖つ白波立ちし来るらも
一は云はく、満ちし来ぬらし
語釈
- かしふ【可之布】:香椎(かしひ)のなまりか。
- え【江】:入り江。湾。
- わたる【渡る】:(海や川などを)越えて向こう側へ行く。
- しか【志賀】:現在の福岡市東区志賀島。
- うら【浦】:海辺。海岸。
- おきつ【沖つ】:「つ」は「の」の意の上代の格助詞。
香椎の入り江に鶴が鳴きながら飛んでいくよ。志賀の海岸に沖の白波が立って来るんだろうなあ。
遣新羅使(作者未詳)
万葉歌碑の所在地
場所:志賀島中学校の正門左側
住所:〒811-0322 福岡県福岡市東区大岳4丁目5-1