志賀の浦に漁する海人家人の待ち恋ふらむに明し釣る魚
『万葉集』の第15巻3653番歌は、天平8(736)年に新羅へと派遣された遣新羅使が歌った「筑紫の館に至りて遙かに本郷を望みて、悽愴みて作れる歌四首」のうちの一首です。第15巻3653番歌の原文・現代語訳・作者・万葉歌碑を紹介します。
天平八年丙子夏六月、遣使新羅國之時、使人等、各悲別贈答、及海路之上慟旅陳思作歌
并、當所誦詠古歌 一百四十五首
天平八年丙子の夏六月、使を新羅国に遣はしし時に、使人らの、各々別を悲しびて贈答し、また海路の上にして旅を慟み思を陳べて作れる歌
并せて、所に当りて誦詠せる古歌 一百四十五首
語釈
- へいし【丙子】:干支の組み合わせの13番目。西暦年を60で割って、余り16の年が丙子の年。
- しらき【新羅】:朝鮮半島東南部にあった三韓のうちの一国。
至筑紫舘遥望本郷、悽愴作歌四首
筑紫の館に至りて遙かに本郷を望みて、悽愴みて作れる歌四首
語釈
- つくし【筑紫】:九州地方の総称、または筑前と筑後の総称。
- つくしのたち【筑紫の館】:のちの福岡城内にあったとされる、海外からの使節を接待するための客館。
- もとつくに【本郷】:故郷の大和。
- いたむ【悽愴む】:悲しむ。嘆く。
思可能宇良尒 伊射里須流安麻 伊敝妣等能 麻知古布良牟尒 安可思都流宇乎
志賀の浦に漁する海人家人の待ち恋ふらむに明し釣る魚
語釈
- しか【志賀】:現在の福岡市東区志賀島。
- うら【浦】:海辺。海岸。
- いへびと【家人】:同じ家に住む人。家族。妻。
志賀の海辺で漁をしている海人が、家族が待ち焦がれているだろうに、夜が明けるまで魚を釣っている。
遣新羅使(作者未詳)
万葉歌碑の所在地
場所:志賀島小学校の玄関右側
住所:〒811-0323 福岡県福岡市東区志賀島1566-1