方丈記の品詞分解と読み方|総ルビつき「ゆく河の流れ」を読む

『方丈記』の序章、「ゆく河の流れ」の品詞分解と読み方をまとめました。品詞分解はできるだけ見やすいように、原文を細かく区切って一節ごとに掲載しております。また、原文のすべての漢字にルビを振っておりますので、読み方もわかりやすいかと思います。

 ちなみに、「方丈記」の読み方は「はうぢゃうき」。ほうは「はう」、じょうは「ぢゃう」だなんて、意外と難しいですよね。河は「かは」、家は「いへ」など、読み慣れている漢字ほど歴史的仮名遣いを間違えそうになります。

 品詞分解を調べているのは、テスト対策の中高生が多いかと思います。そこで、このページには現代語訳も掲載いたしました。『方丈記』の冒頭について、内容や背景を詳しく知りたいという方は、ぜひこちらのページもご覧ください♪

ゆく河の流れは絶えずして、

原文

 ゆくかはながれはえずして、しかも、もとのみずにあらず。

品詞分解

  • ゆく【行く】:動詞「ゆく」の連体形(カ行四段活用)
  • かは【河・川】:名詞
  • の:格助詞
  • ながれ【流れ】:名詞
  • は:係助詞
  • たえ【絶え】:動詞「絶ゆ」の未然形(ヤ行下二段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の連用形
  • して:接続助詞
  • しかも:接続詞
  • もと【元】:名詞
  • の:格助詞
  • みず【水】:名詞
  • に:断定の助動詞「なり」の連用形
  • あら:動詞「あり」の未然形(ラ行変格活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の終止形

現代語訳

 流れゆく川の流れは途絶えることがなく、しかも、もとの水ではない。


原文

 よどみにかぶうたかたは、かつえ、かつむすびて、ひさしくとどまりたるためしなし。

品詞分解

  • よどみ【淀み・澱み】:名詞
  • に:格助詞
  • うかぶ【浮かぶ】:動詞「浮かぶ」の連体形(バ行四段活用)
  • うたかた【泡沫】:名詞
  • は:係助詞
  • かつ:副詞
  • きえ【消え】:動詞「消ゆ」の連用形(ヤ行下二段活用)
  • かつ:副詞
  • むすび【結び】:動詞「結ぶ」の連用形(バ行四段活用)
  • て:接続助詞
  • ひさしく【久しく】:形容詞「久し」の連用形(シク活用)
  • とどまり【留まり】:動詞「留まる」の連用形(ラ行四段活用)
  • たる:完了・存続の助動詞「たり」の連体形
  • ためし【例し】:名詞
  • なし:形容詞「なし」の終止形

現代語訳

 よどみに浮かぶ水の泡は、片方では消え、片方では生まれ、いつまでもとどまっている例はない。

語釈
  • よどみ【淀み・澱み】:川の流れが停滞しているところ。
  • うたかた【泡沫】:水に浮く泡。
  • むすぶ【結ぶ】:(泡などが)形をなす。

原文

 なかにあるひとすみかと、またかくのごとし。

品詞分解

  • よのなか【世の中】:名詞
  • に:格助詞
  • ある:動詞「あり」の連体形(ラ行変格活用)
  • ひと【人】:名詞
  • と:格助詞
  • すみか【栖】:名詞
  • と:格助詞
  • また:副詞
  • かく:副詞
  • の:格助詞
  • ごとし:比況の助動詞「ごとし」の終止形

現代語訳

 世の中にある人も住まいも、同じくこのようである。

たましきの都のうちに棟を並べ、

原文

 たましきのみやこのうちにむねならべ、いらかあらそへる、

品詞分解

  • たましき【玉敷き】:名詞
  • の:格助詞
  • みやこ【都】:名詞
  • の:格助詞
  • うち【内】:名詞
  • に:格助詞
  • むね【棟】:名詞
  • を:格助詞
  • ならべ【並べ】:動詞「並ぶ」の連用形(バ行下二段活用)
  • いらか【甍】:名詞
  • を:格助詞
  • あらそへ【争へ】:動詞「争ふ」の已然形(ハ行四段活用)
  • る:完了・存続の助動詞「り」の連体形

現代語訳

 宝石を敷きつめたように美しい都の中で棟を比べ、屋根の高さを競うように建ち並んでいる、

語釈
  • たましき【玉敷き】:玉(宝石)を敷いたように美しいこと。
  • ならぶ【並ぶ】:比べる。比較する。
  • 甍を争ふ【甍を争ふ】:屋根の高さを競うように建物がぎっしり並ぶ。

原文

 たかき、いやしきひとまひは、きせぬものなれど、

品詞分解

  • たかき【高き】:形容詞「高し」の連体形(ク活用)
  • いやしき【卑しき・賤しき】:形容詞「卑し」の連体形(シク活用)
  • ひと【人】:名詞
  • の:格助詞
  • すまひ【住まひ】:名詞
  • は:係助詞
  • よよ【世々】:名詞
  • を:格助詞
  • へ【経】:動詞「経(ふ)」の連用形(ハ行下二段活用)
  • て:接続助詞
  • つきせ【尽きせ】:動詞「尽きす」の未然形(サ行変格活用)
  • ぬ:打消の助動詞「ず」の連体形
  • もの【物】:名詞
  • なれ:断定の助動詞「なり」の已然形
  • ど:接続助詞

現代語訳

 身分が高い、あるいは低い人の家は、何世代を経ても変わらないものであるはずなのに、


原文

 これをまことかとたづぬれば、むかしありしいへはまれなり。

品詞分解

  • これ【是】:代名詞
  • を:格助詞
  • まこと【真・実・誠】:名詞
  • か:係助詞
  • と:格助詞
  • たづぬれ【尋ねれ】:動詞「尋ぬ」の已然形(ナ行下二段活用)
  • ば:接続助詞
  • むかし【昔】:名詞
  • あり:動詞「あり」の連用形(ラ行変格活用)
  • し:過去の助動詞「き」の連体形
  • いへ【家】:名詞
  • は:係助詞
  • まれなり【稀なり】:形容動詞「まれなり」の終止形(ナリ活用)

現代語訳

 これを本当かと聞いて回ってみると、昔あった家はほとんど残っていない。


原文

 あるいは去年こぞけて、今年ことしつくれり。あるいはおほいへほろびて、いへとなる。

品詞分解

  • あるいは【或いは】:動詞「あり」の連体形(ラ行変格活用)+上代の間投助詞「い」+係助詞「は」の連語
  • こぞ【去年】:名詞
  • やけ【焼け】:動詞「焼く」の連用形(カ行下二段活用)
  • て:接続助詞
  • ことし【今年】:名詞
  • つくれ【作れ・造れ】:動詞「つくる」の已然形(ラ行四段活用)
  • り:完了・存続の助動詞「り」の終止形
  • あるいは【或は】:動詞「あり」の連体形(ラ行変格活用)+上代の間投助詞「い」+係助詞「は」の連語
  • おほいへ【大家】:名詞
  • ほろび【滅び・亡び】:動詞「ほろぶ」の連用形(バ行上二段活用)
  • て:接続助詞
  • こいへ【小家】:名詞
  • と:格助詞
  • なる【成る】:動詞「なる」の終止形(ラ行四段活用)

現代語訳

 あるところは去年焼けて、今年建てた家である。あるところは大きな家が落ちぶれて、小さな家となっている。


原文

 ひとこれおなじ。ところはらず、ひとおほかれど、

品詞分解

  • すむ【住む】:動詞「住む」の連体形(マ行四段活用)
  • ひと【人】:名詞
  • も:係助詞
  • これ【是】:代名詞
  • に:格助詞
  • おなじ【同じ】:形容詞「同じ」の終止形(シク活用)
  • ところ【所】:名詞
  • も:係助詞
  • 変はら【変はら】:動詞「変はる」の未然形(ラ行四段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の連用形
  • ひと【人】:名詞
  • も:係助詞
  • おほかれ【多かれ】:形容詞「多し」の已然形(ク活用)
  • ど:接続助詞

現代語訳

 その家に住む人もこれと同じ。場所も変わらず、人もたくさんいるけれど、


原文

 いにしへひとさんじふにんなかにわづかに一人ひとり二人ふたりなり。

品詞分解

  • いにしへ【古へ】:名詞
  • み【見】:動詞「見る」の連用形(マ行上一段活用)
  • し:過去の助動詞「き」の連体形
  • ひと【人】:名詞
  • は:係助詞
  • にさんじふにん【二三十人】:名詞
  • が:格助詞
  • なか【中】:名詞
  • に:格助詞
  • わづかに:形容動詞「わづかなり」の連用形(ナリ活用)
  • ひとりふたり【一人二人】:名詞
  • なり:断定の助動詞「なり」の終止形

現代語訳

 かつて見た人は20~30人中たった1人か2人である。


原文

 あしたに、ゆふべまるるならひ、ただみずあわにぞたりける。

品詞分解

  • あした【朝】:名詞
  • に:格助詞
  • しに【死に】:動詞「死ぬ」の連用形(ナ行変格活用)
  • ゆふべ【夕】:名詞
  • に:格助詞
  • うまるる【生まるる】:動詞「生まる」の連体形(ラ行下二段活用)
  • ならひ【習ひ・慣らひ】:名詞
  • ただ:副詞
  • みず【水】:名詞
  • の:格助詞
  • あわ【泡】:名詞
  • に:格助詞
  • ぞ:係助詞
  • に【似】:動詞「似る」の連用形(ナ行上一段活用)
  • たり:完了・存続の助動詞「たり」の連用形
  • ける:詠嘆の助動詞「けり」の連体形

現代語訳

 朝に死ぬ人もいれば、夕方に生まれる人もいるこの世の定めは、まさに水の泡に似ていることよ。

語釈
  • ならひ【習ひ・慣らひ】:世の定め。世の常。

知らず、生まれ死ぬる人、

原文

 らず、まれぬるひと、いづかたよりたりて、いづかたへかる。

品詞分解

  • しら【知ら】:動詞「知る」の未然形(ラ行四段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の連用形
  • うまれ【生まれ】:動詞「生まる」の連用形(ラ行下二段活用)
  • しぬる【死ぬる】:動詞「死ぬ」の連体形(ナ行変格活用)
  • ひと【人】:名詞
  • いづかた【何方】:指示代名詞
  • より:格助詞
  • きたり【来たり】:動詞「来たる」の連用形(ラ行四段活用)
  • て:接続助詞
  • いづかた【何方】:指示代名詞
  • へ:格助詞
  • か:係助詞
  • さる【去る】:動詞「去る」の連体形(ラ行四段活用)

現代語訳

 私にはわからない、この世に生まれて死んでゆく人は、どこから来て、どこへ去っていくのだろうか。


原文

 またらず、かり宿やどり、ためにかこころなやまし、なにによりてかをよろこばしむる。

品詞分解

  • また:接続詞
  • しら【知ら】:動詞「知る」の未然形(ラ行四段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の連用形
  • かりのやどり【仮の宿り】:名詞(名詞「仮」+格助詞「の」+名詞「宿り」)
  • た【誰】:人称代名詞
  • が:格助詞
  • ため【為】:名詞
  • に:格助詞
  • か:係助詞
  • こころ【心】:名詞
  • なやまし【悩まし】:動詞「悩ます」の連用形(サ行四段活用)
  • なに【何】:指示代名詞
  • に:格助詞
  • より【由り・因り・依り】:動詞「よる」の連用形(ラ行四段活用)
  • て:接続助詞
  • か:係助詞
  • め【目】:名詞
  • を:格助詞
  • よろこば【喜ば】:動詞「喜ぶ」の未然形(バ行四段活用)
  • しむる:使役の助動詞「しむ」の連体形

現代語訳

 また、わからない、はかない現世の仮住まい、いったい誰のために心を悩まし、何によって目を喜ばせようというのだろうか。

語釈
  • かりのやどり【仮の宿り】:仮の住まい。「現世は仮の世」という仏教の思想から、「はかないこの世」の意味で使われることもある。

原文

 そのあるじすみかと、無常むじゃうあらそふさま、いはばあさがほつゆにことならず。

品詞分解

  • その【其の】:指示代名詞「そ」+格助詞「の」
  • あるじ【主】:名詞
  • と:格助詞
  • すみか【栖】:名詞
  • と:格助詞
  • むじゃう【無常】:名詞
  • を:格助詞
  • あらそふ【争ふ】:動詞「争ふ」の連体形(ハ行四段活用)
  • さま:名詞
  • いはば【言はば】:副詞
  • あさがほ【朝顔】:名詞
  • の:格助詞
  • つゆ【露】:名詞
  • に:格助詞
  • ことなら【異なら】:形容動詞「ことなり」の未然形(ナリ活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の終止形

現代語訳

 その主人と住まいとが、無常を争うように消えていく様子は、例えるなら朝顔の露と同じだ。

語釈
  • むじゃう【無常】:〘仏教語〙永遠に変わらないものは何一つないということ。

原文

 あるいはつゆちて、はなのこれり。のこるといへども、あされぬ。

品詞分解

  • あるいは【或いは】:動詞「あり」の連体形(ラ行変格活用)+上代の間投助詞「い」+係助詞「は」の連語
  • つゆ【露】:名詞
  • おち【落ち】:動詞「落つ」の連用形(タ行上二段活用)
  • て:接続助詞
  • はな【花】:名詞
  • のこれ【残れ】:動詞「残る」の已然形(ラ行四段活用)
  • り:完了・存続の助動詞「り」の終止形
  • のこる【残る】:動詞「残る」の終止形(ラ行四段活用)
  • と:格助詞
  • いへ【言へ】:動詞「言ふ」の已然形(ハ行四段活用)
  • ども:接続助詞
  • あさひ【朝日】:名詞
  • に:格助詞
  • かれ【枯れ】:動詞「枯る」の連用形(ラ行下二段活用)
  • ぬ:完了の助動詞「ぬ」の終止形

現代語訳

 ある時は露が落ちて、花が残っている。残るといっても、朝日に当たると枯れてしまう。


原文

 あるいははなしぼみて、つゆなほえず。えずといへども、ゆふべことなし。

品詞分解

  • あるいは【或いは】:動詞「あり」の連体形(ラ行変格活用)+上代の間投助詞「い」+係助詞「は」の連語
  • はな【花】:名詞
  • しぼみ【萎み・凋み】:動詞「しぼむ」の連用形(マ行四段活用)
  • て:接続助詞
  • つゆ【露】:名詞
  • なほ【尚・猶】:副詞
  • きえ【消え】:動詞「消ゆ」の未然形(ヤ行下二段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の終止形
  • きえ【消え】:動詞「消ゆ」の未然形(ヤ行下二段活用)
  • ず:打消の助動詞「ず」の終止形
  • と:格助詞
  • いへ【言へ】:動詞「言ふ」の已然形(ハ行四段活用)
  • ども:接続助詞
  • ゆふべ【夕】:名詞
  • を:格助詞
  • まつ【待つ】:動詞「待つ」の連体形(タ行四段活用)
  • こと【事】:名詞
  • なし:形容詞「なし」の終止形(ク活用)

現代語訳

 ある時は花がしぼんで、露がまだ消えないでいる。消えないといっても、夕方を待つことはない。

語釈
  • むじゃう【無常】:〘仏教語〙永遠に変わらないものは何一つないということ。