鴨長明『方丈記』の原文と現代語訳を、語釈付きで全17回に分けて掲載しています。

鴨長明『方丈記』原文と現代語訳(4)
また、治承四年水無月のころ
原文・語釈
また、治承四年水無月のころ、にはかに都遷り侍りき。いと思ひの外なりし事なり。
- みやこうつり【都遷り】:遷都。
現代語訳
また、その2か月後の治承4(1180)年6月頃、急に都が遷されました。まったく思いもよらない出来事でした。
おほかた、この京のはじめを聞ける事は
原文・語釈
おほかた、この京のはじめを聞ける事は、嵯峨の天皇の御時、都と定まりにけるより後、すでに四百余歳を経たり。ことなるゆゑなくて、たやすく改まるべくもあらねば、これを、世の人やすからず、憂へあへる、実にことわりにもすぎたり。
- ことなるゆゑ【殊なる故・異なる故】:特別な理由。
- げに【実に】:まったく。そのとおり。ほんとうに。
- ことわりなり【理なり・断りなり】:もっともだ。
現代語訳
おおよそ、この平安京の始まりについて聞き知っていることは、嵯峨天皇の御代に都と定められてから既に400年余りが経過している。特別な理由もなく、そう簡単に都を変えられるはずもないので、この遷都を世の人々が不安に思い、心配し合うのは、まったく当然のことであった。
されど、とかく言ふかひなくて
原文・語釈
されど、とかく言ふかひなくて、帝よりはじめ奉りて、大臣、公卿、みなことごとく移ろひ給ひぬ。世に仕ふるほどの人、誰か一人、ふるさとに残り居らむ。官、位に思ひをかけ、主君のかげを頼むほどの人は、一日なりともとく移ろはむとはげみ、時を失ひ、世に余されて、期する所なきものは、憂へながらとまり居り。
- とかく:あれやこれやと。
- かひなし【甲斐無し・効無し】:仕方がない。どうしようもない。
- おもひをかく【思ひを懸く】:執着する。
- かげ【陰・蔭】:庇護。おかげ。恩顧。
- とく【疾く】:早く。急いで。早々に。
- あます【余す】:余計者にする。取り残す。
- ごす【期す】:結果を期待する。待ち望む。
現代語訳
しかしあれこれ言っても仕方がなく、天皇より遷幸なさって、大臣も公卿もみな残らずお移りになっていった。朝廷に勤めるお役人は、誰が一人で旧都に残っていようか。官職、位階の昇進に執着し、主君の恩顧を頼みにしているような人は、一日でも早く新都へ移ろうと必死である。時勢に乗れず、社会から見放されて、頼る所のない者は、悲嘆にくれながら旧都にとどまっている。
軒を争ひし人の住まひ
原文・語釈
軒を争ひし人の住まひ、日を経つつ荒れゆく。家はこぼたれて、淀河に浮かび、地は目の前に畠となる。人の心、みな改まりて、ただ馬、鞍をのみ重くす。牛、車を用する人なし。西南海の領所を願ひて、東北の庄園を好まず。
- さいなんかい【西南海】:西海道(九州)と南海道(四国・淡路・紀伊)。平氏の息がかかった地域。
- とうぼく【東北】:平安京の東側(東海・北陸・東北)。平氏の勢力外。
現代語訳
軒を争うように建ち並んでいた人々の住まいは、日が経つにつれて荒れてゆく。家は解体されて、新都の建材として淀川に流され、宅地はあっという間にさら地となる。人の心はすっかり変わってしまった。ただ馬、鞍ばかりを重んじ、牛、車を必要とする人はいない。西南海の領地を望み、東北の荘園は望まない。

鴨長明『方丈記』の参考書籍

- 浅見和彦『方丈記』(2011年 ちくま学芸文庫)
- 浅見和彦『方丈記』(笠間書院)
- 安良岡康作『方丈記 全訳注』(1980年 講談社)
- 簗瀬一雄訳注『方丈記』(1967年 角川文庫)
- 小内一明校注『(影印校注)大福光寺本 方丈記』(1976年 新典社)
- 市古貞次校注『新訂方丈記』(1989年 岩波文庫)
- 佐藤春夫『現代語訳 方丈記』(2015年 岩波書店)
- 中野孝次『すらすら読める方丈記』(2003年 講談社)
- 濱田浩一郎『【超口語訳】方丈記』(2012年 東京書籍)
- 城島明彦『超約版 方丈記』(2022年 ウェッジ)
- 小林一彦「NHK「100分 de 名著」ブックス 鴨長明 方丈記」(2013年 NHK出版)
- 木村耕一『こころに響く方丈記 鴨長明さんの弾き語り』(2018年 1万年堂出版)
- 水木しげる『マンガ古典文学 方丈記』(2013年 小学館)
- 五味文彦『鴨長明伝』(2013年 山川出版社)
- 堀田善衛『方丈記私記』(1988年 筑摩書房)
- 梓澤要『方丈の狐月』(2021年 新潮社)
- 『京都学問所紀要』創刊号「鴨長明 方丈記 完成八〇〇年」(2014年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)
- 『京都学問所紀要』第二号「鴨長明の世界」(2021年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)
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