方丈記（3）また、治承四年卯月のころ｜原文・語釈・現代語訳

　鴨長明『方丈記』の原文と現代語訳を、語釈付きで全17回に分けて掲載しています。

鴨長明『方丈記』原文と現代語訳（3）

また、治承四年卯月のころ

原文・語釈

また、治承ぢしやう四年卯う月づきのころ、中御門なかのみかど京極きやうごくのほどより、大おほきなる辻つじ風かぜ起こりて、六条わたりまで吹ける事はべりき。

現代語訳

また、治承4（1180）年4月頃、中御門京極のあたりから巨大な竜巻が発生し、六条のあたりまで吹き進んだことがありました。

三、四町を吹きまくる間に

原文・語釈

三、四町ちやうを吹きまくる間あひだにこもれる家いへども、大おほきなるも、小ちひさきも、一つとして破れざるはなし。さながら平ひらに倒たふれたるもあり、桁けた柱はしらばかり残れるもあり。門かどを吹きはなちて四、五町ちやうがほかに置き、また、垣かきを吹きはらひて隣と一つになせり。

現代語訳

　3～4町にわたって吹きまくり、竜巻の圏内にあった家々は、大きな家も小さな家も一軒たりとも破壊されない家はなかった。ぺしゃんこにつぶれた家もあれば、桁と柱だけが残った家もあった。門を吹き抜いて4～5町も離れた所へ飛ばし、また、垣根を吹き払って隣の家と一つの敷地に変えてしまった。

いはむや、家のうちの資財

原文・語釈

いはむや、家いへのうちの資財、数を尽くして空にあり、檜ひ皮はだ、葺ふき板いたのたぐひ、冬の木の葉の風に乱みだるがごとし。塵ちりを煙けぶりのごとく吹き立てたれば、すべて目も見えず、おびたたしく鳴りとよむほどに、もの言ふ声こゑも聞こえず。かの地獄の業ごふの風なりとも、かばかりにこそはとぞおぼゆる。

現代語訳

さらに言えば、家の中の資財はことごとく空に巻き上げられ、檜皮や葺板のたぐいは、まるで冬の木の葉が風に乱れ舞っているかのようである。塵を煙のように吹き立てれば、まったく目も見えない。凄まじい音が鳴り響くたびに、物言う声も聞こえない。かの地獄の業風であろうとも、これほどではないだろうと思われるほどであった。

家の損亡せるのみにあらず

原文・語釈

家いへの損そん亡まうせるのみにあらず、これを取りつくろふ間に身を損そこなひ、片かた端はづける人、数も知らず。この風、未ひつじの方に移りゆきて、多おほくの人の歎なげきなせり。辻風つじかぜは常に吹くものなれど、かかる事やある。ただ事にあらず。さるべきもののさとしか、などぞ疑うたがひはべりし。

現代語訳

家が損壊しただけではなく、壊れた家を修繕している間に怪我をして、身体が不自由になってしまった人は数知れない。この風は南南西の方角に移っていき、多くの人々を絶望させた。竜巻は常日頃から吹くものではあるが、こんなことが起こるなんて、ただ事ではない。しかるべき神仏の警告であろうか、などと疑ったのでありました。