方丈記(1)ゆく川の流れは絶えずして|原文・語釈・現代語訳

 鴨長明『方丈記』の原文と現代語訳を、語釈付きで全17回に分けて掲載しています。

目次

鴨長明『方丈記』原文と現代語訳(1)

ゆく川の流れは絶えずして

原文・語釈

ゆくかはの流れはえずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつむすびて、ひさしくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

語釈
  • よどみ【淀み・澱み】:川の流れが停滞している場所。
  • うたかた【泡沫】:水に浮く泡。

現代語訳

流れゆく川の水は途絶えることがなく、しかも、もとの水は流れ去り、新しい水が流れ込んでいる。よどみに浮かぶ水の泡は、一方では消え、もう一方では生まれ、ずっと同じ場所にとどまっていることはない。世の中に存在する人も住まいも、またこのように入れ替わっている。

たましきの都のうちに棟を並べ

原文・語釈

たましきのみやこのうちにむねを並べ、いらかを争へる、高き、いやしき人の住まひは、て尽きせぬものなれど、これをまことかとたづぬれば、むかしありしいへまれなり。あるいは去年こぞ焼けて、今年ことしつくれり。あるいはおほいへほろびていへとなる。

語釈
  • たましき【玉敷き】:玉(宝石)を敷いたように美しいこと。
  • 甍を争ふ【甍を争ふ】:屋根の高さを競うように建物がぎっしり並ぶ。

現代語訳

宝石を敷きつめたように美しい都の中に、たくさんの家が棟を並べ、屋根の高さを競うように建ち並んでいる。身分が高い人の家も、低い人の家も、何世代を経ても変わらないはずなのに、これを本当かと聞いて回ってみると、昔から残っている家はめったにない。ある家は去年焼けて、今年新しく建てたとか。大きな家が落ちぶれて、小さくなった家もある。

住む人も是に同じ

原文・語釈

住む人もこれに同じ。ところも変はらず、人もおほかれど、いにしへ見し人は二、三十人が中にわづかに一人ひとり二人ふたりなり。あしたに死に、ゆふべに生まるるならひ、ただ水のあはにぞたりける。

語釈
  • ならひ【習ひ・慣らひ】:世の定め。世の常。

現代語訳

その家に住む人もこれと同じ。場所も変わらず、人も多いけれど、昔会ったことがある人は20~30人中わずかに1人か2人である。朝に死んでゆく人もいれば、夕方に生まれてくる人もいる世の定めは、まさに水の泡に似ている。

知らず、生まれ死ぬる人

原文・語釈

知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る。また、知らず、かり宿やどり、ためにか心を悩まし、なにによりてか目をよろこばしむる。

語釈
  • かりのやどり【仮の宿り】:仮の住まい。「現世は仮の世」という仏教の思想から、「はかないこの世」の意味で使われることもある。

現代語訳

わからない、この世に生まれて死んでゆく人は、どこから来てどこへ去るのだろうか。また、わからない、はかない現世の仮住まいに過ぎない家を、いったい誰のために苦労して建てて、何を見せて目を喜ばせようというのだろうか。

その主と栖と、無常を争ふさま

原文・語釈

そのあるじすみかと、無常むじゃうを争ふさま、いはばあさがほの露にことならず。あるいは露落ちて、花残れり。残るといへども、朝日に枯れぬ。あるいは花しぼみて、露なほ消えず。消えずといへども、ゆふべを待つ事なし。

語釈
  • むじゃう【無常】:〘仏教語〙永遠に変わらないものは何一つないということ。

現代語訳

その家の持ち主と建物とが、死んでは生まれたり、壊しては造ったり、無常を争うように入れ替わるさまは、言ってみれば朝顔の露と同じである。ある時は露が先に落ちて、花が残る。残るといっても、朝日が差す頃には枯れてしまう。ある時は花が先にしぼみ、露がまだ消えないことがある。消えないといっても、夕方を待つことはない。

鴨長明『方丈記』の参考書籍

  • 浅見和彦『方丈記』(2011年 ちくま学芸文庫)
  • 浅見和彦『方丈記』(笠間書院)
  • 安良岡康作『方丈記 全訳注』(1980年 講談社)
  • 簗瀬一雄訳注『方丈記』(1967年 角川文庫)
  • 小内一明校注『(影印校注)大福光寺本 方丈記』(1976年 新典社)
  • 市古貞次校注『新訂方丈記』(1989年 岩波文庫)
  • 佐藤春夫『現代語訳 方丈記』(2015年 岩波書店)
  • 中野孝次『すらすら読める方丈記』(2003年 講談社)
  • 濱田浩一郎『【超口語訳】方丈記』(2012年 東京書籍)
  • 城島明彦『超約版 方丈記』(2022年 ウェッジ)
  • 小林一彦「NHK「100分 de 名著」ブックス 鴨長明 方丈記」(2013年 NHK出版)
  • 木村耕一『こころに響く方丈記 鴨長明さんの弾き語り』(2018年 1万年堂出版)
  • 水木しげる『マンガ古典文学 方丈記』(2013年 小学館)
  • 五味文彦『鴨長明伝』(2013年 山川出版社)
  • 堀田善衛『方丈記私記』(1988年 筑摩書房)
  • 梓澤要『方丈の狐月』(2021年 新潮社)
  • 『京都学問所紀要』創刊号「鴨長明 方丈記 完成八〇〇年」(2014年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)
  • 『京都学問所紀要』第二号「鴨長明の世界」(2021年 賀茂御祖神社(下鴨神社)京都学問所)

 実際に読んだ『方丈記』の関連本を以下のページでご紹介しております。『方丈記』を初めて読む方にも、何度か読んだことがある方にもオススメの書籍をご紹介しておりますので、ぜひご覧ください♪

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この記事を書いた人

『方丈記』に感銘を受けて古典文学にのめり込み、辞書を片手に原文を読みながら、自分の言葉で現代語に訳すことを趣味としています。2024年9月から10年計画で『源氏物語』の全訳に挑戦中です。

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