ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
鴨長明『方丈記』の有名な書き出しですが、「この先をちゃんと読んだことがない」という方は少なくないと思います。私もその一人で、方丈記に感銘を受けたのは35歳ぐらいの頃。それから鴨長明のファンになり、これまでに方丈記に関する本を計16冊読みました。どれも読み応えがあって面白いのですが、選びやすいように特におすすめの本を7冊だけ厳選してご紹介します。方丈記を初めて読む方も、既に何冊か読んだことがある方も、ぜひ参考にしてみてくださいね♪
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方丈記のおすすめ本7選
木村耕一・黒澤葵『こころに響く方丈記』(1万年堂出版)
『方丈記』を初めて読む方に一番おすすめしたいのがこちらの本。カラーの写真とイラストが豊富で、活字が苦手な方でも楽しめるかと思います。現代語訳はわかりやすく意訳されていて、とても読みやすいです。解説も最小限でありながら、ポイントはしっかり抑えられており、長明の生涯もうまくまとめられています。巻末には原文が全文通しで掲載されているため、入門書としてはまったく申し分ないボリューム。方丈の庵跡(長明方丈石)への訪問取材、長明のインタビューも面白いです。ものすごく前向きな気持ちになれるので、ご友人やご家族へのプレゼントにもおすすめですよ♪
水木しげる『マンガ古典文学 方丈記』(小学館)
『ゲゲゲの鬼太郎』でおなじみ、水木しげる氏によるマンガ作品。鴨長明の生涯や当時の出来事を交えながら、方丈記の内容がとてもわかりやすく描かれています。水木先生は方丈記を若い頃から愛読してきたそうです。自身は大戦を生き抜いた経験から、長明の生き方に共感するところも多かったのでしょう。たくさんの情報を1時間ほどで読める漫画にまとめられているのはさすがの一言。鬼太郎の漫画を読んだことがある方ならわかるかと思いますが、水木先生は絵も非常にきれいです。巻末には原文が全文掲載されています。まずはサクッと方丈記の内容や鴨長明の人生を知りたい、という方におすすめです。
中野孝次『すらすら読める方丈記』(講談社文庫)
小説家の中野孝次氏による現代語訳がとてもわかりやすい。タイトル通り、すらすら読めます。ページの上段に原文、下段に現代語訳が掲載されており、原文を見ながら現代語訳を読めるのも利点。原文の漢字や歴史的仮名遣いのすべてにルビが振ってあるため、原文も読みやすいです。解説はかなり詳しく書かれています。方丈記の内容や時代背景、鴨長明の生き方を一通り知るには十分。文字数も多いのですが、やはりすらすら読めるのは小説家の文章だからでしょうか。方丈記の原文と現代語訳を通しで読みたい、という方におすすめしたい一冊です。
浅見和彦訳『方丈記』(ちくま学芸文庫)
私が初めて読んだ方丈記の本がこちら。これをきっかけに見事に鴨長明のファンになり、その後いろんな本を読みましたが、本格的な訳本の中ではこの本が一番わかりやすいと思います。方丈記の訳本を一冊だけ買うならこの本ですかね。原文は最初に通しで全文が掲載されています。そのあとに段落を短く切って原文・現代語訳・解説が書かれているので、少しずつじっくりと読み進めていくことができます。最後に20ページほどのまとめ解説があり、この部分を読むだけでも方丈記の概要や鴨長明の生涯を理解できるのでおすすめです。
五味文彦『鴨長明伝』(山川出版社)
方丈記を既に読んだことがあり、内容を知っている方におすすめしたいのがこちらの本。鴨長明の生涯についてかなり詳しく書かれています。例えば長明の生年は1155年とされているのが通説ですが、この本によると1153年生。私もその根拠に納得し、1153年生を支持しています。『無名抄』や『発心集』にも詳しく触れられており、長明のすべてとまでは言いませんが非常に深いところまで学べる一冊。方丈記に魅了されて鴨長明のことをもっと知りたい!と思った方におすすめです。
『大福光寺本 方丈記』(新典社)
方丈記の最古の伝本といわれているのがこちらの大福光寺本です。現在の京都府船井郡京丹波町にある大福光寺に保存されている写本で、方丈記の解説本のほとんどが大福光寺本をベースにしています。岩波文庫版もありますが、私は新典社版の方がデザインが好きです。文庫本よりもサイズが大きく、写本が見やすいのも良いと思っています。ただ、解説は岩波文庫版の方がわかりやすいです。でも解説は別の本で読めばいいので、やっぱりこちらの方が好きかな。
『鴨長明の世界』(賀茂御祖神社 京都学問所)
こちらは下鴨神社に参拝した時に購入した本です。残念ながら書店やネット通販では手に入らないのですが、これが大変な良本。5人の専門家による考察が掲載されており、先に紹介した浅見和彦氏も一筆寄せています。まだ販売されているのかはわかりませんが、下鴨神社に参拝された時にもし見つけたら迷わずご購入ください。
その他に読んだ方丈記関連の本
その他にも方丈記や鴨長明に関する本はたくさん出版されています。上記7冊は特におすすめというだけで、これから紹介する本がいまいちというわけでは決してありません。気になる本があればぜひ読んでみてくださいね♪
堀田善衛『方丈記私記』(ちくま文庫)
小説家の堀田善衛氏による長編エッセイ(私記)。東京大空襲で被災した経験を安元の大火に重ねたり、平安時代末期の政治腐敗を現代に重ねたりと、自身の経験をもとに方丈記を読み解いていく作品です。ジブリの宮崎駿監督が堀田氏を尊敬していたそうで、『方丈記私記』のアニメ化が「僕の宿題」であるという寄せ書きを残しています。ジブリ作品としてアニメ化されれば多くの人に方丈記を知ってもらえますし、いつかは実現してほしいですね。
梓澤要『方丈の狐月』(新潮文庫)
鴨長明の生涯を題材とした時代小説です。史実にはないエピソードもありますが、「そんなことも本当にあったんじゃないかなあ」と思わせてくれて想像が広がります。いずれ鴨長明が大河ドラマの主人公にでもなったら面白いですよね。
「100分de名著」ブックス 鴨長明 方丈記(NHK出版)
NHKのテレビ番組「100分de名著」のテキストです。番組は25分×4回で構成されており、テキストもそれに沿って全4章。『方丈記』の回は2012年10月に放送されたそうで、東日本大震災の記憶もまだ新しい頃であったためか、「元暦の大地震」が最初に解説されています。原文の流れ通りではありませんが、読者(視聴者)の興味を引く構成となっているのはさすが。最後まで一気に読めます。ただ、全文通しの原文は掲載されていないため、別の解説本の補足として読むのがおすすめです。
安良岡康作訳『方丈記』(講談社学術文庫)
おすすめで紹介した浅見和彦氏の訳本よりもページ数が多く、情報量も多いです。特徴としては原文の単語や文節ごとに注釈があること。段落ごとに原文→現代語訳→注釈→解説という順番でまとめられています。かなり詳しく書かれている分、読むのにかなり根気がいるので、別の本で方丈記の内容をある程度知ったうえで読むのがおすすめです。
簗瀬一雄訳『方丈記』(角川ソフィア文庫)
最初に原文が全文通しで掲載されているのは浅見和彦氏の訳本と同じですが、ページの上段に原文、下段に古語の意味や簡単な注釈が書かれており、それを見ながら原文を読み進めるだけでも内容がある程度わかるようになっています。現代語訳は古語の意味や文法に沿って忠実に訳したものではありませんが、補足や意訳が入っている分わかりやすいです。後半に参考資料として、鴨長明が影響を受けたとされている『池亭記』の原文(現代語訳なし)が掲載されています。ファンにとっては嬉しい資料ですが、やはりこちらも別の本で方丈記の内容をある程度理解したうえで読むのがおすすめです。
城島明彦『超約版 方丈記』(ウェッジ)
おすすめで小説家の中野孝次氏による『すらすら読める方丈記』を紹介しましたが、こちらも同じく小説家の城島明彦氏による訳本。解説は短めのコメントのみですが、現代語訳に補足情報が盛り込まれています。現代語訳だけを読めば時代背景も理解できるように工夫されており、集中して読み進めることができるのが利点です。原文も巻末に全文掲載されておりますのでご安心ください。もっと気楽に方丈記を読みたい方におすすめです。
濱田浩一郎『【超口語訳】方丈記』(東京書籍)
こちらは歴史学者であり作家でもある濱田浩一郎氏による訳本。「超口語訳」というタイトル通り、現代語訳はかなり意訳されています。超口語訳でありながら解説も充実。多すぎず少なすぎず、ちょうど良い分量だと思います。気楽に現代語訳を読んでみたいけど、解説もそこそこ詳しいものを読みたい、という方におすすめの一冊です。
『新訂 方丈記』(岩波文庫)
おすすめ本の中では新典社版の『大福光寺本 方丈記』を紹介しましたが、こちらにも大福光寺本の写しが掲載されています。個人的にデザインやサイズは新典社版の方が好きですが、解説はこちらの岩波版の方が詳しいです。
『鴨長明方丈記完成800年』(京都学問所)
最後に紹介するのがこの本。おすすめ本で紹介した『鴨長明の世界』と同じく下鴨神社で購入したものです。鴨長明が方丈記を書いて800年が経ったことを記念して、エッセイ・短歌・写真のコンテストを開催していたそうで、入賞作品が掲載されています。たくさんの人の方丈記愛が感じられる良本です。残念ながらこちらも書店やネット通販では手に入りませんので、下鴨神社に参拝した際にもし売っていれば購入してみてください。
方丈記の原文・現代語訳の全文はこちらから
誠にお恥ずかしい限りではございますが、当ブログに私が辞書を引きながら訳した方丈記の現代語訳を掲載しております。プロに比べると大変つたない文章ではありますが、内容はおおかた理解できるかと思いますので、よかったらぜひ読んでみてください。一人でも多くの方が方丈記、鴨長明を好きになってもらえると嬉しいです。