マヤ神話『ポポル・ヴフ』の内容を全7回に分けて紹介します。
第5回目は、フンアフプーとイシュバランケーが冥界シバルバーを征服し、太陽と月になる話です。『ポポル・ヴフ』のクライマックスともいえる熱い戦いをぜひお楽しみください♪


シバルバーからの使者
父親たちが使っていた球戯道具を手に入れたフンアフプーとイシュバランケーの双子は、かつて父親たちがそうであったように、来る日も来る日も球戯に熱中しました。その地面の下で生活しているシバルバーの者たちは、上から聞こえてくる球戯の音がうるさくてたまりません。シバルバーの大王フン・カメーとヴクブ・カメーは、二人をシバルバーへ連れてくるよう使者を遣わせました。
シバルバーからの使者が双子の家を訪ねた時、フンアフプーとイシュバランケーは家にいませんでした。球戯場で遊んでいたのです。
「7日以内に絶対来いっちゃ!」
と言われた祖母のイシュムカネーは、息子のフン・フアンフプーの時のことを思い出して独り悲しくなりました。するとそこに一匹のシラミが落ちてたので、イシュムカネーはシラミに二人への伝言を頼みます。
シラミの伝言
球戯場へと向かったシラミは、道中でカエルに遭遇しました。シラミの話を聞いたカエルは、
「貴殿の足では7日以内に間に合わないケロ。吾輩の方が速いケロ」
と言ってシラミを飲み込み、球戯場へと向かいました。しかしカエルの足も大して早くありません。そこに現れたのは大きな蛇。事情を聞いた蛇はカエルを飲み込み、急いで向かいます。
そして今度は鷹に会いました。鷹は蛇を飲み込み、球戯場へひとっ飛び。それ以来、蛇は鷹の食べ物となり、カエルは蛇の食べ物となり、シラミはカエルの食べ物となったのです。
球戯場に着いた鷹は蛇を吐き出し、蛇はカエルを吐き出し、カエルはシラミを吐き出しました。そしてシラミがフンアフプーとイシュバランケーに伝えると、双子はシバルバーへと向かいました。

もっと清潔な虫にしてほしい
アイ!
シバルバーへ到着する直前、双子は蚊を偵察に出しました。シバルバーに潜入した蚊が大王フン・カメーを刺すと、
「アイ!」
と叫びます。隣に座っている者が、
「フン・カメー大王、どうされましたか?」
と尋ねるので、それを聞いてフン・カメーがいることがわかりました。次に蚊がその隣の者を刺すと、同じように「アイ!」と叫び、そのまた隣の者が「〇〇さん、どうされましたか?」と尋ねていくので、双子はシバルバーに入る前に全員の名前を知ることができたのです。
ちなみに蚊は本当に刺したわけではなく、フンアフプーのすね毛でつついただけだったのでした。



だからいちいち下品なんよ。すね毛のくだり要らんやろ
最強の二人
双子がシバルバーに入ると、かつて父親たちがだまされた木の人形がありました。双子はそれを見破り、シバルバーの大王たち一人ひとりの名前を呼んであいさつしました。双子はこれまた父親たちがだまされた焼石の椅子に座るよう言われますが、もうその手は見切っています。シバルバーの者たちは早速、かつて双子の父親たちがクリアできなかった闇の館へと連れて行きました。
闇の館のクエストは、火のついたマツとタバコを翌朝まで形を崩さずに返すこと。父親たちは何の策も思いつかずただ燃やし尽くしてしまいましたが、双子はその火を消して、代わりにオウムの赤い羽根を付けました。二人を監視しているシバルバーの番人には、それが本物の火のように見えたのです。そして翌朝にまた火をつけて、マツとタバコをそのままの状態で返すことができました。
シバルバーは続いて、双子を球戯に誘います。しかし双子はここ最近球戯しかしていなかったので、あっさりと勝ちます。その次は剣の館へと入れますが、双子が向かってくる剣たちに、
「獣の肉をあげるよ♪」
と言うと、剣は動かなくなりました。そのあともクレストは続きますが、寒冷の館では火のついた木片で寒さを吹き飛ばし、ジャガーの館では骨を投げてジャガーを手なずけてクリア。炎の館にいたっては、もはや何もしてないのに燃えませんでした。こうして何の面白みもない手段でクエストをクリアしていった双子でしたが、蝙蝠の館は攻略できませんでした。



これが『ポポル・ヴフ』のクライマックスかも
フンアフプーの死
蝙蝠の館には、カマソッツという鎌を持った怪獣がいました。双子は吹筒の中に隠れてやり過ごします。どうやって吹筒の中に入れるぐらい小さくなったのかは、わかりません。もはや何でもありなのです。
「そろそろ夜が明けたかな。お前ちょっと見てきて」
と、イシュバランケーはフンアフプーに確かめるよう言いました。そしてフンアフプーが吹筒から顔を出すと、一瞬でカマソッツに鎌で首を切り落とされてしまいました。イシュバランケーはもう一度、
「まだ夜は明けてない?」
とフンアフプーに尋ねますが、フンアフプーは返事をしませんでした。



いや死んだってわかれよ
復活する双子
イシュバランケーはフンアフプーの頭を取り戻すべく、動物たちを集めてフンアフプーの仮面を作らせ、フンアフプーの体に付けました。そして仮面フンアフプーとともに、球戯場へ向かいました。球戯場の天井につるされている、フンアフプーの本物の首を取り返すためです。
シバルバーの者たちはフンアフプーが動いていることには何の興味も示さず、普通に試合が始まりました。そしてボールがフィールドの外へ出て、シバルバーの者たちがそれを追いかけているすきに、フンアフプーの首を取り戻したのでした。
こうして数々のクエストを乗り越えていった双子でしたが、シバルバーはまだまだ殺す気満々です。一回死なないと永遠に終わらんなと、双子はわざと死んでみせることにしました。そして双子は自ら火に飛び込み、骨になるまで焼かれたのです。骨は石うすで挽かれて粉になり、川に投げ捨てられました。すると粉が人間の形になり、美しい青年の姿に変わります。こうして生き返った二人は、再びシバルバーの前に姿を現したのでした。
太陽と月と星の誕生
二人は大道芸人のふりをして、相手を殺して生き返らせるという趣味の悪い芸をシバルバーの者たちに披露しました。するとこれが大好評。観客の方から、
「俺を殺して生き返らせてみてくれ」
と名乗り出るものが現れ、ついにはカメー大王がその役を買って出たのです。当然二人は生き返らせるふりをして、生き返らせませんでした。カメー大王を殺害されたシバルバーの者たちは大混乱。双子に征服されました。
シバルバーを征服したフンアフプーとイシュバランケーは、太陽と月になりました。かつてヴクブ・カキシュを殺そうとして返り討ちにあった400人の若者たちは、星になりました。



そんな空イヤだ


【次回】人類誕生
続いてはまた世界創造の話に戻り、人間が誕生します。泥土で失敗し、木でも失敗した人間造り。果たしてうまくいくのでしょうか。人類の運命やいかに。

