マヤ神話『ポポル・ヴフ』(3)フンアフプーとイシュバランケーの生い立ち

 マヤ神話『ポポル・ヴフ』の内容を全7回に分けて紹介します。

 第3回目は、ヴクブ・カキシュという傲慢な男を一家もろとも 殺害 退治した双子の神、フンアフプーとイシュバランケーの生い立ちの話です。二人の父の名はフン・フンアフプーといい、イシュキックという処女の娘にツバを吐きつけます。そのツバにはフン・フンアフプーの種が宿っており、処女のまま妊娠したイシュキックは双子の男の子を出産。その双子がフンアフプーとイシュバランケーなのでした。

 嫁入り前に妊娠したことを非難されながらも、自らの運命を悟り、義母に認められようと必死に頑張るイシュキック。涙なしには語れない全マヤが泣いた感動の誕生秘話(大嘘)をお楽しみください♪

目次

フンアフプーとイシュバランケーの家系

 フンアフプーとイシュバランケーの父親の名は、フン・フンアフプー(1・猟師の意)といいます。フン・フンアフプーにはイシュバキヤロ(骨がつなぎ合わされている女の意)という名の妻がおり、フンバッツ(1・ホエザルの意)とフンチョウエン(1・クモザルの意)という二人の息子がいました。

 フン・フンアフプーの両親、つまりフンアフプーとイシュバランケーの祖父母の名は、イシュピヤコックとイシュムカネー(老人と老女の意味)といいます。第1回目の創造神話で、神々に木の人間を造るようアドバイスして失敗させた、あの老夫婦です。どちらが祖父でどちらが祖母かは文献によってまちまちなので、ここではイシュムカネーを祖母として話を進めます。祖父はいつの間にか死んでいたのか登場しませんので、イシュピヤコックの名は忘れてください。

 もう一人、フン・フンアフプーにはヴクブ・フンアフプー(7・猟師の意)という兄弟がいました。ヴクブ・フンアフプーは独身で、フン・フンアフプー親子が遊び相手。4人は来る日も来る日も球戯に明け暮れ、フン・フンアフプーの妻イシュバキヤロが死んだ日も遊びほうけていたのでした。

カモ

はっ⁉

双子の家系まとめ

フン・フンアフプー:双子の父

ヴクブ・フンアフプー:フン・フンアフプーの兄弟=双子の叔父

フンバッツ:フン・フンアフプーの長男

フンチョウエン:フン・フンアフプーの次男

イシュバキヤロ:フン・フンアフプーの妻

イシュピヤコック:フン・フンアフプーの父=双子の祖父

イシュムカネー:フン・フンアフプーの母=双子の祖母

冥界シバルバーで殺害されるフンアフプー兄弟

 彼ら4人が遊んでいた地面の下には、シバルバー(死者の場所の意)という冥界がありました。シバルバーにはフン・カメー(1・死の意)とヴクブ・カメー(7・死の意)という二人の大王がいて、地上から聞こえてくる球戯の音のやかましさにムカついていました。フン・フンフアプーとヴクブ・フンフアプーの兄弟をシバルバーに呼び出し、殺害することを決意します。

 フンアフプー兄弟は自分たちが殺されるとは考えもしなかったのか、何の警戒心もなくシバルバーへとやって来ました。応接間に置いてあった木の人形を、カメー大王だと思った二人は、

「こんにちは! カメーさん!」

 と、人形に向かって本気の挨拶。それを見ていたシバルバーの者たちは大爆笑です。カメー大王が、

「まぁそこ座らんね」

 と、火であぶった石の椅子への着席を促すと、フンアフプー兄弟はまんまと座って火傷を負います。これまたシバルバーの者たちは大大爆笑。笑い転げすぎて、腹も血も骨も痛くなってしまったほどでした。

カモ

意味わからんけど『ポポル・ヴフ』にそう書いとるんや

「こいつらアホばい」

 と、勝利を確信したカメー大王は、フンアフプー兄弟を「闇の館」へ案内します。火のついたマツとタバコを二人に渡して、

「明日の朝、火が消えとったらくらすぞ!」

 と、告げます。二人は「くらす(ぶっ殺す)」の意味がわからなかったのか、言われるがままに闇の館へ入りました。マツもタバコも一瞬で燃え尽きてしまい、火は消えてしまったのでした。夜が明けると、

「きさんら、なんしよんかちゃ!」

 と、カメー大王は二人を生け贄にして、死体を埋めました。フン・フンアフプーの首だけは切り落とされて、木につるされたのでした。

カモ

なんかもう、品がないかも

イシュキックがフン・フンアフプーの子を身ごもる

 フン・フンアフプーの首がつるされた木は、それまで一度も実をつけたことありませんでした。にもかかわらず、首がつるされたとたんに次々と実がなり始め、たちまち実でいっぱいになったのです。その噂を耳にしたイシュキック(小さな血の意)という少女は、その木を見に行くことにしました。

 イシュキックが木の前にやってくると、骸骨と化していたフン・フンアフプーの首が話しかけてきました。

「この木の実はぜーんぶ骸骨なんだお。えっ、欲しいって?」

 と言って、イシュキックの左手にツバを吐きつけました。イシュキックは慌てて手を見つめますが、もうツバは消えています。しかし、

「偉大な王子の頭だって、肉を取れば骸骨なんだお。賢者の子供も、雄弁家の子供も、みーんなツバと同じだお。死んで無くなるんじゃなくて、受け継がれていくんだお。おれは今、おまえにそれをしたんだお。ツバに種を宿したんだお。さあ、地上へ上がるンゴ!」

 と、告げられたイシュキック。すでにフン・フンアフプーの子供を妊娠していたのでした。

カモ

ふつうにキモい

父親に勘当されて地上へと向かうイシュキック

 それから6か月がたち、イシュキックの妊娠が父親にバレてしまいます。父親の名はクチュマキック(一緒になっている血の意)。シバルバーの王の一人です。イシュキックは男を知らないまま妊娠したことを必死に訴えますが、まったく信じてくれません。

「そげな娼婦のごた女は、生け贄にするしかなかたい!」

 と、クチュマキックは4羽のミミズクに、イシュキックの心臓をカメー大王のもとへ届けるよう命じたのです。

 しかし、ミミズクたちはイシュキックの話を信用し、

「あなたを殺したくはありません。何か、代わりになるものを持って行きましょう」

 と、イシュキックの味方になったのでした。ちょうど目の前には、血のように赤い樹液を出す木があります。その樹液を集めると、不思議と心臓の形になって固まりました。それをミミズクたちがカメー大王に届けると、すっかりイシュキックの心臓だと勘違い。ミミズクたちはイシュキックを連れて、地上へと飛び立って行ったのでした。

カモ

『ポポル・ヴフ』はとにかく命が軽いかも

フンアフプーとイシュバランケーを出産

 地上に出たイシュキックは、自分を妊娠させたフン・フンアフプーの母、イシュムカネーの家を訪ねます。

「お義母さん、私のお腹にはあなたの息子さんの子がいるの。私はフンの妻なの。あなたの義娘なの」

 と訴えますが、嘘つき呼ばわりされてしまいます。イシュムカネーからすると、息子二人がシバルバーに出かけたきり死んでしまって、知らない女が突然来てこんなことを言い出すのですから、不愉快に思うのも無理はないでしょう。家にはフン・フンアフプーの実子、フンバッツとフンチョウエンもいましたが、この二人もイシュキックに怒りをあらわにしていました。

 しかしイシュムカネーは、イシュキックを完全に拒絶することはしませんでした。

「トウモロコシを網いっぱいにとってきな! そしたら嫁と認めてやろうじゃないの」

 と、イシュキックにチャンスを与えます。イシュキックは早速、フンバッツとフンチョウエンが管理しているトウモロコシ畑へと向かいました。しかし、生えているトウモロコシは1本だけ。悲しくなったイシュキックは、チャハールという食糧の神に祈りを捧げました。すると、網いっぱいのトウモロコシが現れたのです。

 網いっぱいのトウモロコシを持ち帰ったイシュキックは、めでたしめでたし。イシュムカネーに嫁として認められました。そして無事に、フンアフプーとイシュバランケーを出産。しかしこの双子は誰からもかわいがられることはなく、兄であるフンバッツとフンチョウエンからいじめられる運命が待っていたのでした。

カモ

やっと少しまともな話だったかも

【次回】フンアフプーとイシュバランケーの逆襲

 フンバッツとフンチョウエンにとって、後から生まれてきた双子の弟、フンアフプーとイシュバランケーは実に面白くない存在でした。それはまだちょっと理解できるのですが、双子は祖母であるイシュムカネーからも嫌われて、母のイシュキックも助けてくれません。誰からもかわいがられず、食事も与えられなかった双子は、フンバッツとフンチョウエンへの復讐を誓います。

カモ

次が一番胸糞悪いかも

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この記事を書いた人

『方丈記』に感銘を受けて古典文学にのめり込み、辞書を片手に原文を読みながら、自分の言葉で現代語に訳すことを趣味としています。2024年9月から10年計画で『源氏物語』の全訳に挑戦中です。

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