大汝少彦名の神こそは名づけ始めけめ名のみを名児山と負ひてわが恋の千重の一重も慰めなくに
『万葉集』の第6巻に収録されている963番歌は、大伴旅人の異母妹であり、女性では最多の84首が『万葉集』に収録されているスーパー歌人、大伴坂上郎女が詠んだ歌です。任地で妻を亡くした旅人を支えるため、神亀5(728)年頃から大宰府へと下向していた坂上郎女は、天平2(730)年11月、旅人の帰任に伴って京へと戻ることになります。その時に詠まれた『万葉集』第6巻、963番歌の原文・読み下し文・現代語訳と、万葉歌碑の場所を紹介します♪
『万葉集』第6巻 963番歌の原文と現代語訳
冬十一月、大伴坂上郎女發帥家上道、超筑前國宗形郡名兒山之時作歌一首
大汝小彦名能神社者名着始鶏目名耳乎名兒山跡負而吾戀之千重之一重裳奈具佐米七國
冬十一月に、大伴坂上郎女の帥の家を発ちて道に上り、筑前国の宗形郡の名児山を越えし時に作れる歌一首
大汝少彦名の神こそは名づけ始めけめ名のみを名児山と負ひてわが恋の千重の一重も慰めなくに
語釈
- 大伴坂上郎女:大伴旅人の異母妹。旅人の妻の逝去により大宰府へ下向し、旅人の帰任に伴って帰京した。
- そち【帥】:大宰帥(大宰府の長官)。大伴旅人のこと。
- のぼる【上る】:上京する。
- 筑前国:現在の福岡県中部から北西部にかけての地。
- 宗形郡:現在の福岡県宗像市と福津市(旧宗像郡)の地。
- 名児山:現在の福岡県宗像市と福津市との境の山。
- 大汝:須佐之男命の子、大穴牟遅。大国主命とも。少彦名と国造りを行った。
- 少彦名:高皇産霊神の子。大汝と国造りを行った。
- おふ【負ふ】:(名を)持つ。
- ちへのひとへ【千重の一重】:多くの中のほんの一部分。
冬の11月に大伴坂上郎女が帥(異母兄・大伴旅人)の家を出発して京への道を上り、筑前国の宗形郡の名児山を越えた時に作った歌1首
大汝と少彦名の神こそが、最初に名付けたのでしょう。お名前ばかりを「名児山(心を慰める山)」といいながら、わたしの恋心の千分の一も慰めてくれないなんて。
鴨
坂上郎女はラブソングの女王だったかも♪
『万葉集』第6巻 963番歌の万葉歌碑
大汝少彦名の神こそは名づけ始めけめ名のみを名児山と負ひてわが恋の千重の一重も慰めなくに
この歌が刻まれた万葉歌碑は、福岡県福津市の「あんずの里運動公園」内にあります。ここは景色も素晴らしいので、ぜひ訪れてみてください♪
『万葉集』第6巻 963番歌の万葉歌碑
住所:〒811-3521 福岡県福津市勝浦1706-1