『源氏物語』の第22帖「玉鬘」から第31帖「真木柱」までは玉鬘十帖と呼ばれ、玉鬘が結婚するまでの半生が描かれています。玉鬘は光源氏が17歳の頃に逢瀬を交わしていた美女、夕顔の娘。光源氏は夕顔のことが忘れられず、娘である玉鬘の行方も気になっていました。18年ぶりに見つけた玉鬘は、夕顔にまさるほど美しく成長しており、光源氏は自分の養女として迎え入ることに。性欲モンスター光源氏の狙いはもちろんアレ。若い頃は超イケメンでモテモテだった光源氏も、今や35歳の中年男性であり、なかなかにキモいです。源氏物語「玉鬘」のあらすじをわかりやすく紹介します。
玉鬘の母の死を隠蔽した光源氏
年月隔たりぬれど、飽かざりし夕顔を露忘れ給はず
光源氏は17歳の頃、夕顔という2つ年上の美女にのめり込んでいました。夕顔は光源氏との密会中に急死してしまうのですが、それから18年が経ち、35歳になった今も夕顔のことが忘れられません。夕顔の乳母であった右近もまた、「今も生きていれば」と悲しんでも悲しみきれない思いでした。
夕顔には玉鬘という娘がいました。玉鬘は母である夕顔がすでに亡くなっていることを知りません。スキャンダルを恐れた光源氏が、夕顔の死を隠蔽したからです。密会現場で夕顔に連れ添っていた右近は、光源氏の家来となり口止めされていました。世間的には行方不明という事態となり、玉鬘を引き取った乳母も夕顔の行方を探しますが、まったく手がかりがありません。そうこうしているうちに乳母の夫が大宰少弐に任命され、玉鬘は乳母の一家とともに筑紫国へと下向することに。玉鬘が4歳になる年のことでした。
ところで、玉鬘の父親は頭中将という人です。夕顔は頭中将の愛人で、玉鬘を産むと正妻から嫉妬され、脅しをかけられてしまいます。正妻からのいじめに耐えられず、娘とともに逃げ隠れていたので、頭中将も行方不明だと思っていました。ちなみに頭中将は光源氏の義理の兄であり、二人で女遊びをしまくっていた悪友。光源氏はその頭中将にも、夕顔の死を隠していたのです。
光源氏ヤバすぎるかも⋯⋯
粗暴な田舎豪族から逃げるように帰京
母君よりもまさりてきよらに、父大臣の筋さへ加はればにや、品高くうつくしげなり。
玉鬘は母夕顔にまさるほど清らかで、上品で美しい女性に成長していきました。多くの青年たちに求婚されますが、ここは筑紫国。品のない田舎っぺばかりで、玉鬘にはまったくふさわしくありません。乳母は「ひどい不具がある」などと嘘をついて追い返していましたが、それでもしつこく言い寄ってきたのが大夫監という肥後の豪族です。30歳ぐらいの男で、振る舞いが荒々しく、声はガラガラ。「怒らせると何をしでかすかわからない」と聞いていた乳母は、大夫監に恐怖を感じていました。そんなことにも気付けない大夫監は、下手くそな歌を詠んでまで求婚を迫ります。
君にもし心違はば松浦なる鏡の神にかけて誓はむ
大夫監は「我ながら上出来」と自信満々でしたが、乳母は「幼稚な歌」と一蹴。返歌に困りましたが、すぐに返さないと何をされるかわからないので、震え声で次の歌を返します。
年を経て祈る心の違ひなば鏡の神をつらしとや見む
すると大夫監が「待てや。こはいかに仰せらるる」と近寄ってきたので、乳母は恐怖で血の気が引いてしまいました。「もうこんな田舎にはいられない」と、玉鬘を連れて上京することを決意。逃げるように九州を脱出し、京へ入りました。
右近と奇跡的に再会し、光源氏の養女となる
さるは、かの世とともに恋ひ泣く右近なりけり。
乳母たちの一行は玉鬘の幸せを祈願するため、現在の奈良県桜井市にある長谷寺に参拝します。その近くの宿で休んでいると、ちょっと上品な身なりの一行が泊まりに来ました。それがあの、亡き夕顔をいつも恋い慕っていた右近の一行だったのです。右近も玉鬘のことを思い、定期的に長谷寺へ参拝し続けていたのでした。奇跡の再会を喜び合う中で、右近は夕顔の死を告げ、美しく成長した玉鬘の姿に感激します。
右近はさっそく光源氏に話します。光源氏は大喜び。「玉鬘の実父にはたくさんの子供がいるから、そこに新しく入るのはつらいだろう。子供が少ない私が引き取ろう。実父に知らせる必要もなかろう」という意味のわからない理屈を述べて、玉鬘を自分の実の娘ということにして六条院に引き取りました。六条院は太政大臣となり栄華を極めていた光源氏の大豪邸。光源氏が気に入った愛人たちも住んでいるハーレムです。玉鬘の美しさはその中にあっても印象的で、またたく間に男たちが言い寄ってきました。
玉鬘に夢中になった男たちの一人が、玉鬘の父、頭中将の息子である柏木。玉鬘は実の姉ですが、光源氏の娘だと紹介されていたので結婚できると思っています。光源氏の息子、夕霧も玉鬘に恋心を抱きますが、こちらは玉鬘が実の姉だと思っているので諦めざるを得ません。そして光源氏本人も、玉鬘がかわいくて仕方がない。とうとう自制できなくなり、養女である玉鬘に告白します。ストレートに「気持ち悪い」と思った玉鬘は困惑。最終的には光源氏が玉鬘を諦めますが、まったくどうしようもない性欲モンスターです。
髭黒大将と結婚して幸せに暮らす
玉鬘を諦めた光源氏は、ようやく頭中将に真実を打ち明けます。内大臣となっていた頭中将は複雑な思いを抱きますが、美しく成長した玉鬘と20年ぶりに再会すると涙を抑えられませんでした。一方で頭中将の息子である柏木は、「実の姉に言い寄ってたのか⋯⋯」と大ショック。実の姉だと思っていた光源氏の息子、夕霧にとってはチャンスです。慌てて玉鬘にアピールしますが、最後に玉鬘を娶ったのは髭黒大将という32歳のオッサン。見た目があまり好みでなく、強引に結婚させられたため玉鬘にとっては不本意でしたが、結果的に髭黒大将との間に三男二女をもうけ、幸せに暮らしました。