食品、化粧品、医薬品、電子タバコなど、様々な製品に使用されているグリセリンは、「指定添加物」に分類されている食品添加物です。
指定添加物とは、食品安全委員会による安全性の評価を受け、厚生労働大臣が使用してよいと定めたもの。
「中性脂肪」として人の体内に存在する成分でもあるため、安全性に問題はないように思えます。
しかし、食品ではなく添加物である以上、本当に毒性や危険性がないのか気になるところ。
ダイナマイトの原料であるニトログリセリンも、グリセリンから合成される物質です。
グリセリンは本当に安全な食品添加物なのか、毒性や危険性、発がん性がないのか調べてみました。
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グリセリンの原料と製造方法
グリセリンには、大豆油やパーム油を原料とする天然グリセリンと、石油を原料とする合成グリセリンとがあります。
成分表示ではどちらも「グリセリン」とだけ表示されるため、天然か合成かを判断することはできません。
ただ、天然グリセリンであればその旨をパッケージに記載してアピールするでしょうから、特に何も書かれてなければ石油由来の合成グリセリンと思われます。
天然グリセリンは、油脂を加水分解することによって得られます。
石鹸も油脂を加水分解することで生成されますが、その副産物としてグリセリンを得ることも可能です。
原料となる油脂は、大豆油やパーム油など植物性の油脂もあれば、牛脂や魚油などの動物性油脂が使われることも。
1972年時点では全世界のグリセリンの総需要の約70%が天然グリセリンだったそうです。
1972年における全世界のグリセリンの総需要は、450,000t/年と推定され、この中30%に相当する135,000t/年が合成グリセリン、残りの70%が天然グリセリンによって占められている。
引用:グリセリン製造技術の変遷
最近では、廃食用油を原料とするグリセリンが注目されています。
食品工場や飲食店から排出される廃食用油にメタノールを反応させると、脂肪酸メチルエステル(Fatty Acid Methyl Esters, FAME)というバイオディーゼル燃料が生成されます。
その際にグリセリンも副産物として得られるため、SDGsやカーボンニュートラルなどの観点から注目されているんですね。
2018年には、FAME由来グリセリンが世界の生産量の3分の2を占めているとのこと。
HBIによると、2018年のグリセリン生産量は約380万MTの見込みです。グリセリンの生産量はFAMEの生産量に大きく左右されており、FAME由来グリセリン生産量は世界のグリセリン生産量の3分の2以上を占めています。
引用:日本石鹸洗剤工業会 JSDA部会・委員会の活動
安全と言われても、原料が廃油と聞くとあまり口にしたくはないですよね⋯⋯。
合成グリセリンは、プロピレンという物質から合成されます。
プロピレンの原料はナフサ。
ナフサはガソリンの原料となる石油製品です。
天然グリセリンよりも純度が高いため、医薬品向けはほとんど合成グリセリンが使用されているそうです。
合成だろうが天然だろうが「同じ成分だから同じ」と言われても、石油由来と聞くと体に悪そうなイメージがありますよね。
もちろん天然だから安心とも言えませんし、3分の2の原料が廃油であることを知ると、天然グリセリンもできるだけ避けたいと思ってしまいます。
グリセリンの歴史と用途
グリセリンが発見されたのは1779年のこと。
カール・ヴィルヘルム・シェーレというスウェーデン人の化学者が、オリーブ油の加水分解物の中から発見しました。
カール・ヴィルヘルム・シェーレは、1771年に酸素を発見した人物としても知られています(論文の発表が遅れたため、ジョゼフ・プリーストリーという人物が酸素の第一発見者とされていますが⋯⋯)。
グリセリンの発見と酸素の発見がほぼ同時期というのは、グリセリンの歴史の長さがうかがえますね。
「グリセリン」という名称は、ギリシャ語で「甘い」を意味する「glykys」という言葉が由来。
グリセリンにはサトウキビの約0.6倍の甘味があり、甘味料として使われています。
また、吸湿性が高いことから、乾燥食品や菓子類の保湿剤として使われたり、化粧品の保湿成分として使われたりすることも。
高級ティッシュの「鼻セレブ」に舐めると甘いそうですが、保湿成分としてグリセリンとソルビットが使用されているからだそうです。
食品添加物としては、保存剤、チューインガムの軟化剤、増粘安定剤などの用途でも使用されています。
グリセリンから合成される「グリセリン脂肪酸エステル」も乳化剤や消泡剤などの用途で幅広く使われており、グリセリンは加工食品に欠かせない食品添加物の一つです。
医薬品としては、浣腸液の調剤や軟膏の保湿成分として使用されています。
その他にも、電子タバコのリキッドや、サプリメントのカプセルの原料にもなるグリセリン。
ダイナマイトの爆薬であるニトログリセリンは今、狭心症の薬として使われています。
グリセリンの安全性
グリセリンの安全性については、2017年3月15日に欧州食品安全機関(European Food Safety Authority, EFSA)から「食品添加物としてのグリセリンの再評価に関する科学的意見書」が公表されています。
概要は以下の通り。
「グリセロール」とは、グリセリンの学術用語です。
引用:食品安全関係情報詳細 – 食品安全委員会
- グリセロールは低い急性毒性を有する
- グリセロールは、遺伝毒性に関する懸念を引き起こさず、また、発がん性に関する懸念もなかった
- 食品添加物としてのグリセロールの安全性に懸念はない
「低い急性毒性を有する」というのが気になりますが、遺伝毒性、発がん性、安全性に懸念はないとのこと。
急性毒性の定義については、食品安全委員会のサイトに以下のように書かれています。
化学物質の1回の投与(ばく露)又は短期間(24時間以内)の複数回投与によって短期間(一般的には14日以内)に生じる毒性のこと。
引用:用語集検索(毒性及び毒性試験) | 食品安全委員会
なかなか恐ろしいことが書かれていますね⋯⋯。
「低い急性毒性」がどのぐらい低いのかは不明ですが、少なくともゼロではないということでしょう。
もう一つ、環境省のサイトに「化学物質の環境リスク評価」というページがあり、グリセリンに関する文書を閲覧することができます。
こちらの文書には以下のような記述があります。
雌ラットに0、5%の濃度で6ヵ月間飲水投与(0、3,335 mg/kg/day)した結果、5%群で死亡(1/5匹)、小さい胸腺及び脾臓、尿細管で石灰化した塊がみられた。
引用:化学物質の環境リスク評価 第7巻
濃度5%のグリセリン水を6ヶ月間投与された雌ラットが、5匹に1匹(20%)の割合で死亡したとのことです。
一方で、人への影響についても評価されていて、以下のように書かれています。
14人の大学院生(男性10人、女性4人)に、95%濃度で110 g/dayを3 回/日の食事時にオレンジジュースに混ぜて50日間摂取させた結果、試験期間中に尿酸排出量、基礎代謝量、赤血球数、白血球数、ヘモグロビン濃度への影響や悪影響はみられなかった。
引用:化学物質の環境リスク評価 第7巻
他にも色々と書かれていますが、基本的に人への影響はなかったという内容です。
これらの結果をどう受け取るかは人それぞれですが、私はそれほど危険性はないものと考えます。
グリセリンは長い間、あらゆる食品や化粧品、医薬品にも用いられてきました。
私もこれまでの人生でかなりの量のグリセリンを口にしたり、肌に塗ったりしてきたことでしょう。
今のところは体に異変を感じたことはありませんので、安全性についてはそこまで気にしなくてもいいのかなと思います。
ただ、原料が廃食用油や石油である可能性が高いことを考えると、気持ち的にはあまり口にしたくはありませんね。
「できるだけ摂取しないように気をつける」ぐらいの気持ちで構えたいと思います。