ゼリーやプリン、アイスクリームなどのお菓子作りに欠かせないゼラチン。
さまざまな食品に利用されていますが、食品添加物として扱われるため、「体に悪い」、「有害」だと思われる方も少なくありません。
ゼラチンの歴史は古く、ナポレオンの時代から食されてきた素材ですが、本当に体に悪いのでしょうか。
「原料となる家畜が遺伝子組み換え飼料を食べている」
「ゼラチンの製造工程で塩酸が使われている」
「BSE(狂牛病)の安全性が心配」
といった理由で有害だと言われていますが、実際のところどうなのか、ゼラチンの原料や製造方法について調べてみました。
ゼラチンの歴史
ゼラチンの起源は膠(にかわ)

ゼラチンの起源は、5000年以上前の古代から利用されていたと言われる「膠(にかわ)」。
動物の皮や骨を煮出した液から作られる物質で、昔は「煮皮」という漢字が当てられていました。
用途は食用ではなく接着剤。
シュメール時代には既に使われていたと言われており、古代エジプトの壁画には膠の製造過程が描かれ、ツタンカーメンのお墓からは膠を使った家具や宝石箱が出土しています。
古代中国の古墳からも膠が発見されていますが、日本で使われ始めたのは7世紀以降。
隣国中国よりも普及するのが遅かったのは、日本では膠の原料である獣肉を食べる習慣がなかったからと考えられています。
奈良時代以降、建築用の接着剤や墨液の原料などとして普及し、現在でも和紙の加工や日本画の画材として使われている膠。
その接着力の強さから、「膠着状態」という言葉も生まれました。
食用としての歴史

肉や魚の煮汁を冷ますとゼリー状に固まることがありますが、これは肉や魚に含まれるゼラチンによってゲル化した状態で、いわゆる「煮こごり」です。
煮こごりは古くから食されていたようで、10世紀に書かれた『Kitab al-Tabikh(料理と食養生の本)』というアラビア語の料理本に、魚の頭を煮て作る「アスピック」のレシピが含まれているそうです。
工業的には、17世紀後半に「ドニ・パパン」というフランスの物理学者が、ゼラチンの抽出方法を発見。
ドニ・パパンは、圧力鍋の原理を開発した発明家としても知られている人物です。
食用のゼラチンが生産されるようになったのは1800年代。
食用ゼラチンを一般に広めたのは、ナポレオンと言われています。
宮廷料理にゼラチンを使用し、ナポレオン自身もゼラチンで作った料理やデザートを好んでいたことから、一般市民にも広がっていきました。
ただ、当時のフランス政府はゼラチンを肉の代用品として、貧しい人々のタンパク源と見なしていたそうで、ナポレオンによるプロパガンダだったのかもしれません。
いずれにしても、ゼラチンは今やフランス料理に欠かせない素材。
テリーヌやジュレ、ムースやババロアなど様々な料理に使われています。
ちなみに、日本ゼラチン・コラーゲン工業組合は、7月14日を『ゼラチンの日』と定めています。
7月14日はフランス革命記念日。
1789年7月14日、フランス革命の発端となるバスティーユ襲撃が起きた日を記念して、フランス共和国の成立を祝う「建国記念日」です。
日本では寒天が主流だった
日本では明治時代になってから、欧米の食文化とともにゼラチンが知られるようになりましたが、広く普及し始めたのは1935年頃から。
古くから寒天がゲル化剤として使われていたため、ゼラチンを使う必要があまりなかったんですね。
寒天の主な原料は、海藻のテングサ。
ゼラチンが動物性であるのに対して、寒天は植物性の素材です。
日本で初めてゼラチンの製造工場が作られたのは1918年。
今ではゼラチンの国内シェア約60%を誇る『新田ゼラチン株式会社』が、現在の大阪市浪速区で製造を開始したのが始まりです。
同社は1935年、大阪府八尾市に東洋一のゼラチン工場を建設。
ゼラチンの国内需要の増加とともに、事業を拡大させていきました。
今では日本でも食品や医薬品などに幅広く使われており、ゼラチンは身近な素材となっています。
ゼラチンは体に悪い?
このように食品添加物と言うより「食品」として利用されていたゼラチンですが、日本では「一般飲食物添加物」に分類されています。
一般食品添加物の定義は、「一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるもの」。
言い換えれば、添加物として使用される「食品」です。
日本で古来から使用されていた寒天も、一般飲食物添加物に分類されています。
そのため、ゼラチンは体に悪いものではなさそうですが、原料や製造方法に不安を感じる方は少なくないようです。
ゼラチンの原料は遺伝子組み換え飼料で育った牛や豚?
ゼラチンが体に悪いとされる根拠の一つは、原料である牛や豚が食べている「遺伝子組み換え飼料」が危険だからというものです。
確かに、牛や豚などの家畜が食べている飼料には、大量の遺伝子組み換え飼料が使われています。
例えば、飼料の主原料であるトウモロコシのほぼ100%が輸入品ですが、栽培面積の90%以上が遺伝子組み換えトウモロコシ。
自給率7%のダイズも、輸入品の90%以上が遺伝子組み換えダイズと推計されています。

遺伝子組み換え食品の安全性についての議論は長くなるので避けますが、これを気にしていたらスーパーで売っている牛肉や豚肉も食べられません。
ゼラチンは大量に使うものではありませんので、過度に気にする必要はないかと思います。
また、市場に流通しないため自給率には反映されませんが、トウモロコシやダイズなどを自家飼料用に栽培している酪農家もいます。
安く手に入る輸入品に頼らず、わざわざコストをかけて栽培しているのですから、遺伝子組み換えとは考えにくいです。
遺伝子組み換え食品を一切口に入れたくない方は、このような農家さんが育てた動物を原料としているゼラチンを探すしかないでしょう。
ゼラチンの製造工程で塩酸が使われている?
牛骨もゼラチンの原料として使われますが、牛骨からゼラチンを製造する場合、「脱灰(だっかい)」という工程があります。
牛骨を塩酸に浸して、カルシウムを除去するためです。
牛皮や豚皮の場合も、ゼラチンを抽出しやすくするために塩酸や硫酸による酸処理、または石灰によるアルカリ処理を行います。
知っての通り、塩酸や硫酸は危険な劇物。
このような製造工程を知ると、確かに不安ですよね。
ただ、酸処理やアルカリ処理は、ゼラチンの製造工程の中でかなり前の段階。
その後の工程で水洗い、温水加熱、ろ過、殺菌、乾燥などを行い、検査された上で出荷されますので、製品に酸やアルカリが残っていることはないでしょう。
ゼラチンのBSE安全性について
ゼラチンの危険性としてもう一つ取り上げられるのが「BSE(牛海綿状脳症)」、いわゆる狂牛病です。
牛を原料としている以上、BSEのリスクはゼロではありませんが、BSEについては日本でも厳しい対策が講じられています。
また、万が一BSEに汚染されていたとしても、ゼラチンの製造工程でBSEの感染性が著しく低下するため、ゼラチンにBSE感染性が残る可能性は極めて低いとされています。
これについては、欧州ゼラチン工業組合(GME)が10年にわたる研究を行い、
アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンとも、全工程を経た精製ゼラチンでは感染性は検出されなかった引用:ゼラチン製造における不活化研究に関する海外国内情報調査報告書|日本ゼラチン・コラーゲン工業組合
という結果が出ています。
そもそも、ゼラチンよりも牛肉そのものの方が、BSEのリスクは高いのではないでしょうか。
どうしても心配な方は、原料に牛が使われていないゼラチンを選びましょう。
ゼラチン購入前に原料や製造方法を調べよう
以上のことから、ゼラチンは非常に安全性が高い食品であると思われます。
ただ、ゼラチンパウダーなどを購入する前には、製造業者のホームページなどで原料や製造方法を調べておくといいでしょう。
ゼラチン製造に誇りを持っている企業であれば、原料や製造方法を公開しているかと思います。
逆にホームページがなかったり、情報が一切なかったりする場合は、別の商品を選んだ方がいいかもしれません。
いずれにしても、ゼラチンは食品添加物というより「食品」です。
添加物として使用されていても、それほど気にする必要はないかと思います。